研究課題/領域番号 |
25707021
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西口 創 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (10534810)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / ミュー粒子 / ミューオン / 粒子測定技術 / ガス検出器 / 真空技術 |
研究実績の概要 |
平成25年度に製作した試作器を用いた性能評価、および較正技術開発を進めた。これと並行して、ロシアJINR研究所にて進めていた導電性ストロー膜厚をより薄くする研究開発が想定より成功裏に進み、平成25年度に製作した試作器で採用したストロー膜(36ミクロン厚+70nm厚の銅蒸着陰極)よりも大幅に薄くしたストロー(20ミクロン厚+70nm厚のアルミ蒸着陰極)の開発に成功した。そのため、平成26年度は、試作器での性能評価と並行して、新たに開発したストローの力学的な耐性試験を実施し、このストローが真空中での運用に耐えうる性能を有することを実証した。そこで、当初計画を少し変更し、「より優れた運動量分解能が見込める」20ミクロン新ストローを採用して試作器を作り直し、大幅な低物質量化を実現した。そのため、較正技術開発は多少遅れることになるが、平成25年度の進捗が当初計画より前倒しして進んでいたため、事業全体での遅延は無い。 この試作器を用いた旧ストローでの性能評価、大幅に低物質量化した新ストローの開発、及び新ストローへの換装が平成26年度の主な業績となる。特に、新ストローの開発に関しては、この形式のストローとして世界で最も物質量の少ない導電性ストローの実現という快挙であり、この改造試作器での性能評価を済ませた後、成果をまとめて学術誌に投稿する予定である。また、新ストローへの換装作業の際に新しく開発したストロー張力印加機構は、今後のミュー粒子電子転換過程探索本実験における検出器実機開発にも利用可能なものとして、非常に有用な機構を開発することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度以来開発を進めてきた極薄ストローの性能が当初計画よりも更に大幅に改良されたたため、当初計画を変更し、平成25年度に製作した試作検出器において新ストローに張り替える作業を平成26年度に追加で実施した。このため、平成26年度に実施する予定だった較正技術開発が遅れることとなったが、平成25年度の試作器製作自体が、ストロー開発の大幅な進展によって当初計画を1年前倒ししたものであったため、この追加作業に起因する遅れと相殺し、現在までの達成度としては、概ね順調に進展しているものと考えている。 計画の遅れが生じる可能性を厭わず、新ストローへの換装作業を優先したことで、本事業で開発している「真空で動作可能なストロー型飛跡検出器」における荷電粒子運動量測定精度の性能向上が大いに見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
新ストローへの換装作業を完了したため、本事業最終年度に当たる平成27年度は、まずこの試作器を用いた性能評価を主研究項目に据える。そのため、平成27年8月末を目処に、実験室における各種放射線源からの放射線照射、及び宇宙線を用いた基礎特性試験を終える。特に、真空中での動作を確立することが本事業の主眼であるため、これに重点を置いた基礎特性試験を実施する。具体的には、通常の大気中での運用、大気中で2気圧に加圧した状態での運用、真空中での運用、と3段階に分けて運用し、その各々の状態での基礎特性を測定し、真空中での動作の詳細を研究する。 その後、当初計画の研究項目(B)にある、読出エレクトロニクスとガスマニフォールド運用の最適化の研究を進める。その際、較正技術の改良研究も並行して進める。これらの研究開発を平成27年10月末を目処に進め、平成27年11月~12月に100MeV/c運動量の電子ビーム照射試験を東北大学電子光理学研究センターにて実施し、本事業で開発した「真空中で動作可能なストロー型飛跡検出器」の性能評価を最終的に取りまとめ、この結果を学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新ストローの開発が想定以上に進み、当初計画から変更して検出器試作器を新ストローで換装する作業を行った。この作業は、研究協力者である九州大学大学院生と本事業代表者の二人による手作業で行ったため、必要経費の上積みは発生しなかったが、代わりに平成26年度に実施する計画だった研究開発を平成27年度に繰越したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの次年度使用額は、前述の通り平成26年度に実施する計画だった開発研究に必要な額である。 従って、これらの開発研究は平成27年度に実施する予定で、当初の計画通り、開発した試作検出器の性能評価と較正技術開発に充てる予定である。
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備考 |
本事業代表者の小柴賞受賞の紹介記事にて、本事業で新たに開発した「真空で動作可能なストロー型飛跡検出器」の試作器の開発が写真と共に紹介されている。
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