研究課題/領域番号 |
25707028
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小澄 大輔 大阪市立大学, 複合先端研究機構, 特任准教授 (70613149)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超高速分光 / 光物性 / 光合成 / エネルギー伝達 / 非線形光学 |
研究実績の概要 |
植物及び細菌類の光合成器官は、自然が創造した地上でもっとも光エネルギー変化効率の良いナノバイオデバイスである。このような機能の発現には、光合成期間に含まれる色素分子群の最適化された空間配列および、電子・振動状態の構造が重要な役割を果たすため、光合成機能の全解明には、これらの因子を厳密に理解することが要求される。本申請では、光合成初期過程であるアンテナ系における色素分子間励起エネルギー移動を極超短光パルスにより励起されたコヒーレント分子振動を介して観測される色素分子間相互作用の時間発展という観点から明らかにすることを目的とした。 平成26年度は、前年度構築した光パラメトリック増幅器を使用した波長可変サブ30フェムト秒光パルス及び、中空糸ファイバー光パルス圧縮器による5フェムト秒光パルスを光源とした4光波混合分光法を構築し、光合成初期過程の解明を行った。特に、紅色細菌由来の光合成アンテナに着目し、アンテナ系及び光合成色素分子の4光波混合分光計測を行った。光合成アンテナ系では、5フェムト秒光パルスを用いることで、光合成色素が構成する2つの分子会合体間のコヒーレンスに由来する量子ビート信号を実時間計測することに成功した。 本年度に得られた研究成果の一部は、すでに国際学術雑誌に投稿を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度には様々な光学系の配置等を工夫することにより、前年度導入した中空糸ファイバー光パルス圧縮器からの出力光を試料入射時において、フーリエ変換限界パルス幅である5フェムト秒まで縮めることに成功した。これにより、近赤外光を用いた時間分解分光計測では、世界最高レベルの時間分解能を達成している。また、26年度に導入した超短光パルス幅測定器により、試料の分光計測中も常時パルス幅をモニターすることが可能になり、長時間の測定において高い時間分解能の持続が実現された。 得られた極超短光パルスによる時間分解コヒーレント分光計測を紅色細菌由来の光合成アンテナに適用することで、光合成アンテナに結合する色素分子間のコヒーレンスを示す電子状態由来の量子ビート信号が明確に観測された。この結果は、光合成初期過程におけるエネルギー伝達が光合成色素分子間に作用する電子コヒーレンスにドライブされていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに、光源及び分光計測装置の構築は概ね完了している。本年度は、構築した分光計測装置を用いて、光合成初期過程の解明を行う。特に、光合成色素分子間に作用する電子コヒーレンスの散逸過程における局在分子振動の役割に着目する。このため、前年度と同様に3パルスを用いたコヒーレント4光波混合計測とともに、同一光学配置で測定可能な3パルスポンプ・プローブ分光を行う。3パルスポンプ・プローブ分光では、第一の光パルスで電子励起状態を生成した後、第二光パルスによって励起状態間遷移における瞬時ラマン過程により、励起状態における振動励起状態を優先的に生成可能とする。この手法により、色素分子間量子ビート及び、励起状態における分子振動波束が同時に誘起される。この手法を用いることで、電子コヒーレンスの散逸過程と局在分子振動の関連を調べ、光合成初期過程の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年4月1日付で、研究機関の異動を予定したため、年度内に予定した実験を行うことができず、それに伴い必要な物品等の購入を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究機関の異動による実験器具の移設が必要となるため、そのための費用として使用する。
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