研究課題/領域番号 |
25707030
|
研究種目 |
若手研究(A)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中辻 知 東京大学, 物性研究所, 准教授 (70362431)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 価数搖動 / 軌道揺らぎ / 量子臨界現象 / スピン液体 / 異常金属 / 量子スピンアイス |
研究概要 |
価数と軌道揺らぎによる量子臨界現象と超伝導の研究対象として、YbAlB4とPrT2Al20に注目し、巨視的物性の多角的測定による、磁場・圧力の2つのパラメータによる相図を作成した。その結果、YbAlB4は高圧下でのみ磁気秩序を示すこと、常圧の量子臨界性は高圧の磁気秩序とは無関係であることを確認した。 PrT2Al20においては、PrV2Al20の純良化に成功し、この系が四極子転移を2段で持つこと、また、常圧、及び、加圧下で重い電子超伝導を示すことを確認した。Ba3CuSb2O9の単結晶育成に成功し、低温までこの系が六方晶を保ち、ヤーンテラー転移を示さないことをX線回折実験、超音波、ラマン測定等から明らかにした。 この系は低温で比熱、磁化の低温での振る舞いからギャップレス励起を持っていることを明らかにした。スピン軌道液体状態を実現している可能性がある。 フラストレーションが重要な新奇量子状態として、量子スピンアイス状態を実現するPr2Zr2O7を開発し、この系がスピンアイスに特徴的なピンチポイントとよばれる波数空間の構造を持つことを確認した。さらに、モノポールの量子揺らぎがこの件の理解に重要であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
価数と軌道揺らぎによる量子臨界現象と超伝導の研究の成果として、当初の予定通り、YbAlB4とPrT2Al20について新しい相図の作成に成功した。これによってこれらの系の物性の理解に大いに前進が見込まれる。また、PrV2Al20においては世界にさきがけて、軌道の揺らぎに伴う重い電子超伝導が実現した。
|
今後の研究の推進方策 |
価数と軌道揺らぎによる量子臨界現象と超伝導の研究には、YbAlB4とPrT2Al20に注目し、今回確定した相図に基づき、中性子実験によるスピン、軌道相関、X線吸収分光実験による価数の評価を行うことで、新しい量子臨界機構の解明に迫る。スピン軌道液体の可能性については、Ba3CuSb2O9に注目し、スピンと軌道の揺らぎが複合した特徴的な励起を、多角的物性測定と中性子回折実験から捉えることで、その発現機構の解明に迫る。 【熱膨張・磁歪測定による価数の量子臨界性の解明】近年、α-YbAlB4のAlサイトにFeを1.4 %置換することで、化学圧力の印加に伴い価数の飛びを伴う反強磁性の量子臨界現象が現れ、β-YbAlB4と同様な量子臨界性を示すことがわかってきた。熱膨張・磁歪の精密測定を行い、量子臨界性の起源を解明する。 【四極子近藤格子系PrT2Al20の異常な金属相とその圧力下での相図の解明】PrTi2Al20の圧力下の軌道秩序の量子臨界現象については、物性研究所、上床研究室と共同で多角的な測定により解明する。PrV2Al20は化学的圧力効果により四極子の近藤効果が期待される。多角的な物性測定を行い、その温度、磁場依存性を四極子近藤効果の理論と比較することで、異常金属状態の起源を解明する。圧力下の抵抗測定から、異常金属状態と軌道秩序に伴う量子相転移を追究し、その近傍で超伝導を探索する。 【Ba3CuSb2O9のスピン軌道励起の観測】Ba3CuSb2O9のスピン軌道液体の特性として、スピンシングレットダイマーが、強的相関を持つ軌道揺らぎと複合した、新しい励起が存在する可能性が高い。その検証のため、Ba3CuSb2O9の大型単結晶を用いて、偏極中性子による非弾性散乱実験を行う。さらに、共同研究として、超音波実験、X線散漫散乱・X線非弾性散乱実験を行い、軌道の揺らぎの相関長、特性エネルギーの温度依存性を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
おおむね計画通り使用した。残額は次年度消耗品費に充てる。 消耗品に使用予定。
|