本研究では、光子光源、及び光量子回路における、時間・空間リソースの問題を解決することで、多光子を用いたボソンサンプリングの実現を目指すものである。まず、光子光源としては、「伝令付き単一光子源の多重化」と「発生光子対数の識別」を組み合わせたハイブリッド型伝令付き単一光子源を実現した。そして従来法に比べ、2光子以上の発生率が、44%に抑制されていることを確認した。さらに、構築した理論により、多光子発生をより強く抑制するには、結合効率と光子検出器の検出効率の向上が重要であることを明らかにした(Optics Express 2016)。また、「量子シャッター」を光量子回路を用いて初めて実現した。この研究は、たった1個の光子で複数の量子デバイスを同時に制御できることを意味し、ボソンサンプリングといった複雑な光ネットワークを伴う系への応用が期待できる。具体的には、量子シャッターの状態が、初期状態とは異なるある特定の重ね合わせ状態に変化した場合に、1個のシャッターを用いるだけで、2つのスリットに入射する光子を、コヒーレンスを保ったままはねかえせることを実験的に示した。その結果、その反射率が0.61±0.027と、古典限界である0.5を有意に超えることを実証した(Scientific Reports 2016)。さらに、量子制御SWAPゲート操作を実現する光量子回路を初めて実現した。この量子ゲートは、量子回路全体の簡約化に寄与するだけでなく、「量子メトロロジー」や「量子認証」などに直接適用することができる重要なゲートである。この量子制御SWAPゲートの実現に外部から未知の状態の光子を入力できるものとして、初めて実現することに成功、その量子性を実証した(Scientific Reports 2017)。以上のように多光子を用いたボソンサンプリングの実現に向けた様々な研究成果を得た。
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