研究実績の概要 |
本研究は赤外光レーザーによる局所的な加熱法と蛍光温度測定法を駆使することによって、単一細胞が局所的な温度変化をいかに感じているかを観測し、細胞内の熱の流れの生理的意義を解明することを目的としている。 最終年度となる2015年度では、2014年度から引き続き、温度勾配によって引き起こされる癌細胞(HeLa細胞)の極性ブレブ(熱源方向への細胞膜の伸長)の形成メカニズムの解明を進め、温度勾配による非対称なアクトミオシンの力発生が極性ブレブを引き起こすという新たなモデルを提唱する論文発表を行った(Oyama et al., Biophys. J., 2015)。また、赤外光レーザーによる局所加熱によって、ラット海馬神経細胞の細胞内カルシウム上昇や神経突起を伸長させることに成功し、これらの温度感受性の機構解明を進め、細胞骨格(微小管やアクチンフィラメント)や分子モーターが加熱中の神経突起伸長に関与していることを明らかにし、論文発表を行った(Oyama et al., Sci. Rep., 2015)。これらの現象の発見と機構解明により、「単一細胞は局所的な温度勾配をいかに感じ、応答するか」という問いに対する新たな知見を得ることができた。この他、単一細胞スケールにおける蛍光温度測定法を紹介する書籍の出版や、細胞内の熱の流れを解明する重要性に関するコメントをNature Methods誌に掲載することで、今後の「細胞熱力学」の方向性を明確にした。
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