研究課題
若手研究(A)
20億年前以前、太陽輝度は現在の約80%以下であり、地球大気組成が現在と同じだと仮定すると地球表層は凍り付くほど寒冷であったと予想されている。しかし、地質記録は38億年前から液体の海洋が存在していたことを示している。この矛盾(暗い太陽のパラドックス)を解消するために、初期大気は温室効果ガスであるCO2に富んでいたとする仮説が数値計算から提唱されている。本研究ではこの仮説を検証するために海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英中の流体包有物組成(CO2濃度、Ar同位体比、炭素同位体比)に基づき定量的に『大気海洋CO2濃度変動』を解読し、この仮説を検証することを目的としている。平成25年度はこれまでに収集してきた世界12地域9つの年代(35、32、29、28、27、26、22、5、0.05億年前)の熱水性石英試料約1000個について岩石学的記載を行った。その結果、35、32、22億年前の試料の保存状態が良く分析に適していることが明らかになった。尚、真空ラインの改良を行い、35億年前と22億年前の試料について分析を行った。分析は初生的流体包有物を多く含む試料から二次的流体包有物を多く含む試料について系統的に行った。その結果、35億年前の初生的流体包有物はアルゴン同位体比が低くCO2に富むことが明らかになり、一方、22億年前の試料については初生的流体包有物はCO2濃度が低いことが明らかになった。これは太古代初期では海水CO2濃度が高く22億年前はCO2濃度が相対的に低いことを示している。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英中の流体包有物組成(CO2濃度、Ar同位体比、炭素同位体比)から大気海洋CO2濃度変動を解読することである。この目的を達成するために、初年度(平成25年度)はこれまでに収集してきた世界12地域9つの年代(35、32、29、28、27、26、22、5、0.05億年前)の熱水性石英試料約1000個について薄片を作成し岩石学的記載を行い、石英の保存状態の良し悪しを判断し、分析の地域的優先順位を決定することが目的であった。平成25年度は流体包有物の産状などの記載はほぼ終了し分析の優先順位を決定することができた。当初の予定より早めに分析の優先順位を決定することができたので、予定を繰り上げて35億年前と22億年前の試料の分析を行い、太古代初期と原生代前期の海水CO2濃度について制約を与えた。一方、熱水性石英試料の薄片観察から、流体包有物のサイズが非常に小さい試料が多くあることが明らかになり、流体包有物の均質化温度と氷点温度測定には当初の予定より多くの時間を要することがわかった。このため均質化温度、氷点温度測定は未だ完了していない。また、分析中に真空ラインの一部が故障したため当初予定していた真空ラインの改良、増設については一部行ったものの完了することができなかった。計画全体としては当初の予定より進んでいるものと遅れているものがあり、進捗状況は「おおむね順調」とした。
平成26年度に行う予定であった分析は一部予定を繰り上げて平成25年度に行うことができたため、平成26年度以降は当初の予定より遅れている部分(流体包有物の均質化温度、氷点温度測定)について精力的に進めていく。これにより、岩石学的記載が完了し、得られたデータの解釈について詳細な議論が可能になる。また、分析の精度を向上させるために真空ラインの改良、増設を行っていく。さらに、予定を繰り上げて分析を行った35億年前と22億年前の試料以外にも保存状態の良い32億年前の試料について2地域の試料について分析を行っていく。これにより同時代の試料から見積もられる海水CO2濃度が地域的なものなのか全球的なものなのかを判断する。随時論文としてまとめ投稿していく。
平成25年度は分析用の真空ラインの改良、増設を行う予定であったが、予定を繰り上げて行った試料分析中に発生したポンプやバルブの故障により真空ラインの修理を主に行った。このため増設については次年度に繰り越すことになった。平成26年度は22億年前の試料などCO2濃度の非常に低い試料についても分析の精度を向上させるために導入試料を増やすべく真空破砕容器を大きくする。さらに真空ラインのCO2とH2O量を測定する部分の改良を行う。特に導入試料を増やすとCO2量の測定精度は向上するもののH2O量が多すぎて測定できないという問題が生じるため、H2O量測定部のラインの体積を拡大させH2O量測定上限を上げる。平成25年度に行うことのできなかった真空ラインの改良、増設を行うために次年度使用額を一部使用する。また、平成25年度に行った岩石学的観察から流体包有物の個々のサイズが非常に小さいものが多く、流体包有物の均質化温度、氷点温度測定が予定より多く時間を要することが明らかになったため、平成26年度はポスドクを雇用し、これらの測定を精力的に進める予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
地球化学
巻: 47 ページ: 193;207
Chemical Geology
巻: 359 ページ: 1;9
Precambrian Research
巻: 236 ページ: 59;64
Geochemistry, Geophysics, Geosystems
巻: 14 ページ: 4774;4790
The Journal of the Geological Society of Japan
巻: 119 ページ: 437;442
Geochemical Journal
巻: 47 ページ: 167;183
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 113 ページ: 152;173
巻: 47 ページ: 89;92