研究課題
20億年前以前、太陽輝度は現在の約80%以下であり、地球大気組成が現在と同じだと仮定すると地球表層は凍り付くほど寒冷であったと予想されている。しかし、地質記録は38億年前から液体の海洋が存在していたことを示している。この矛盾(暗い太陽のパラドックス)を解消するために、初期大気は温室効果ガスであるCO2に富んでいたとする仮説が数値計算から提唱されている。本研究ではこの仮説を検証するために海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英中の流体包有物組成(CO2濃度、Ar同位体比、炭素同位体比)に基づき定量的に『大気海洋CO2濃度変動』を解読し、この仮説を検証することを目的としている。平成27年度は、投稿した論文原稿を改定する段階で、初生的流体包有物と二次的流体包有物区別してCO2を検出する必要が生じた。この問題を解決するために、レーザーラマンを用いた流体包有物の局所分析を試みた。その結果、比較的CO2濃度の高い流体包有物(32億年前の試料)に関しては、包有物の直径約10μm以上、レーザーパワー100mW(at sample)以上であれば、バックグラウンドより優位に高いCO2スペクトルを検出できることが明らかになった。一方で比較的CO2濃度の低い流体包有物(22億年前の試料)に関しては上記の条件ではCO2は検出限界以下であることがわかった。この分析は当初の予定にはなかったが、これまで得られていた結果と解釈をサポートする新たなデータを得ることができた。また、投稿論文の改定の際に必要になった追加分析(真空破砕抽出)、試料記載についても行った。尚、比較的CO2濃度が低いと予想される後期太古代試料の分析の効率化を図るために、真空ラインの増設及び消耗品の交換を行い、後期太古代の試料について分析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、海洋底玄武岩の空隙を埋める熱水性石英中の流体包有物組成(CO2濃度、Ar同位体比、炭素同位体比)から大気海洋CO2濃度変動を解読することである。平成27年度は、まだ分析を行っていない後期太古代の試料について分析を完了する予定であったが、投稿論文の改定で必要になったレーザーラマン分析を優先的に行ったため、後期太古代の試料の真空破砕抽出分析は完了していない。尚、当初予定していた真空ラインの増設及び消耗品の交換は完了した。総合的には、当初の計画を超えて行った分析と遅れている分析があり、進捗状況は「おおむね順調」とした。
平成28年度は、後期太古代での大気海水CO2濃度の減少ペースを明らかにするために、平成27年度に開始した後期太古代試料の分析を完了する。また、当初の予定にはなかったレーザーラマン分析についても比較的CO2濃度の高い試料については有効であることが分かったため、本研究の真空破砕抽出分析結果とその解釈をサポートするデータを取得できると期待される。したがって、これまでに真空破砕抽出分析が完了している試料についてもレーザーラマン分析を積極的に進めていく予定である。これにより、地球史を通じた大気海水CO2濃度変動とそのメカニズムに関するモデルを構築する。
平成27年度に行った真空ラインの増設及び消耗品の交換に際して、一部の消耗品(N2ゲッター、Arトラップ)についてはまだ使用可能な状況であったため、これにかかる消耗品費を平成28年度に繰り越した。
平成28年度は、後期太古代の試料の分析を進めつつ、必要になった段階でN2ゲッターとArトラップの消耗品の交換を行うとともに、真空ライン配管とバルブの交換を随時行う予定である。
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