研究課題
若手研究(A)
本年度では、本研究で検証する稍深発・深発地震発生メカニズムの仮説を実験的に検証するのに必要な装置類のセットアップから開始した。特に、本年度ではD-DIA型変形装置に適用可能なアコースティック・エミッション(AE)測定システムの新規構築を行った。当AE測定システムは、試料の破壊に伴って発生する弾性波を検出するシステムであり、高温高圧下での試料のどこで地震が発生したのか(震源探査)、及び発生した地震の規模(マグニチュード測定)を“その場”で測定する。研究計画に示していた通り、平成25年度前半にて放射光施設へ搬入可能な設置・移動の可能なAE測定システムの構築を行った。特に、震源探査の可能なシステムの構築を目指したため、産業技術総合研究所所属の雷興林博士の開発したAE測定システムを参考にした。本年度後半より、本研究にて新規に構築したAE測定システムの動作テストを行った。テスト実験では、AEを多く発生することが知られている、石英の粗粒粉末を試料として用い、2 GPa、室温から1000℃における温度圧力下にてAE震源探査実験を行った。結果として、AEの多くが試料を封入した円筒状カプセル内部(直径3.5mm、長さ5mm)から多く発生する結果となった。このことは、当AE測定システムを用いたAEの震源探査が適切に行えていることを示している。また、申請書に記載した仮説①「水による断層強度低下モデル」を実験的に検証するための実験を開始した。まずは上部マントル浅部~中部における沈み込むスラブの温度圧力条件下(2 GPa,500℃)にて、カンラン岩の一軸圧縮実験を無水条件下にて行った。室温下における試料の加圧中及び試料の加熱中に、多数のAEの発生を確認した。このAEの発生は、試料中の巨視的クラック発生に関連しているものと思われる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画において、本年度(平成25年度)前半においてはAE計測システムの導入を計画していた。当システムの導入は計画通りに遂行することが出来た上、測定データからAE震源位置を計算するプログラム開発も行った。その上で本年度中にシステムの動作テストが完了できた意義は大きいと考える。また、当初の計画においては、本年度(平成25年度)後半においては流体の存在する系でのカンラン岩の剪断すべり実験を予定していた。しかし、すべりにおける水の効果を理解する上で、まずは無水条件下におけるカンラン石の一軸圧縮実験を予め行っておく必要があることが判明した。この実験の結果、500℃を閾温度として無水カンラン石は塑性‐脆性転移を起こすことを明らかにした。この結果は、計画に示した実験を行っていく上での基礎データとなるため、意義のある成果と考える。ただし、当初の計画に示した、流体の存在する系での実験は本年度では行っておらず、その点に関しては今後の課題であるといえる。
本年度において扱った実験対象(論文として取りまとめたものに限る)は上部マントル浅部(2 GPa,500℃)の無水条件下における一軸圧縮実験に留まった。次年度では、同様の実験を含水条件下にて行うとともに、研究計画に示した内容の剪断すべり実験を行う予定である。なお、AE測定システムを構成する、高圧発生用のAEセンサ付アンビルが特注品のため、非常に高価なものとなってしまった(1セットあたり約230万円)。予算の問題から、現在は1セットのみしか保有できておらず、研究の継続のためにはアンビルの損耗を避ける必要がある(高圧下でのアンビルの使用はアンビルの損耗を早めるため)。そのため、当面は上部マントル浅部で多く起きる稍深発地震を研究対象とすることとする。
次年度以降に購入予定の消耗品である、高圧発生用アンビル(AEセンサ付)が特注品であるため、予定よりも高額(1セットあたり約230万円)になってしまったため。基金の一部を次年度に作成するアンビルの予算の一部に充てる。次年度においては、当初の計画通りに高温高圧下での変形実験に必要な消耗品(高圧発生用アンビル、実験用資材等)に対して主に使用する予定である。また、これまでの成果を公表するため、学会参加のための旅費に当てる。また、本研究及び関連する研究の成果を学術論文として公表するため、それに必要なネイティブによる英語論文の英文校閲代、及び論文別刷代についても使用する予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Phys. Earth Planet. Inter.
巻: 228 ページ: 220-231
J. Geophys. Res.
巻: in press ページ: in press
Earth Planet. Sci. Lett.
巻: 362 ページ: 20-30
巻: 216 ページ: 91-98