研究課題
本年度では、これまで開発を進めてきた高圧下アコースティック・エミッション(AE)測定システムの改良を行った。特に、AEセンサから得た波形データからAE震源位置を決定するための計算コードの改良を行った。また、本年度後半では、測定に用いるAEセンサの種類・形状の最適化を行い、AE信号をより高感度に測定できるようにすることを試みた。また本年度では、上部マントル浅部~中部における沈み込むスラブ内にて発生する稍深発地震発生メカニズムの解明を目的とし、当温度圧力条件下においてカンラン岩の一軸圧縮実験を行った。2GPa一定の無水条件下では、600-900℃の広い温度条件下において高歪において強いAEの発生が確認された。一方、1000℃では高歪においても弱いAEのみが確認され、1100℃ではAEは殆ど確認されなかった。即ち、カンラン岩の脆性-塑性遷移は1000-1100℃である結果が得られた。また、最も活発なAEイベント(ここでは発生頻度・マグニチュードの意味で“活発”とする)が観察されたのは中温の900℃であり、それよりも温度が低い場合ではAE発生頻度が減少する傾向が見られた。なお、メインショックのAE(本震)が発生した後は、それによって巨視的な断層が試料に形成されるため、試料の歪は断層のすべりによって賄われる。その際には、AEは殆ど発生しなかった。すなわち、断層の“安定すべり”ではAEは発生しないことが確認された。また、申請書に記載した仮説①「水による断層強度低下モデル」を実験的に検証するため、上記と同様の温度圧力条件下にて含水条件下におけるカンラン岩の一軸圧縮実験を行った。この場合、AEの発生はせず、試料は塑性変形することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
本年度(平成26年度)において仮説①「水による断層強度低下モデル」の検討が進んだほか、仮説③「不安定現象に伴う変形の局所化モデル」の検討についても、温度の効果という観点から検討が進んだ。カンラン石の脆性-塑性遷移の閾温度が1000-1100℃と従来の予想よりもかなり高い温度であることが明らかになった成果は大きく、達成度は高いといえる。ただし実際のスラブ内地震は、400-600℃の領域にて発生しているため、地震の発生原因をカンラン石の脆性破壊と結びつけるには問題がある。この食い違いは実験室と天然での歪速度の違いに起因しているのか、あるいは無水カンラン岩の破壊とは異なるメカニズムが地震発生の原因となっているのかのいずれかのケースが想定される。これを検討することが、次年度の主な課題となる。また、AE測定システムの高度化を本年度より進めたことにより、当システムの信頼性が向上しつつある。システムの高度化は当初予定には無かったものの、試料体積の小さい高圧実験における精確なAE震源位置決定には非常に重要である。現在、震源位置決定における誤差は±3mm未満にまで向上しており、さらなる向上も見込まれている。次年度もシステムの高度化の継続が必要であるものの、現時点においても達成度は高いと言える。
次年度においては、AE発生頻度に対する歪速度の効果を検討するほか、スラブ内地震の主要な原因と考えられている蛇紋石の脱水分解実験を差応力下にて行う。これらの実験によって、沈み込むスラブの400-600℃の領域にて発生している稍深発地震の発生メカニズムの特定を進める。また、次年度においてもAE測定システムの高度化を継続して進めていく。これによって、さらなる震源位置決定精度の向上を目指すことで、確かな実験データが得られる環境を整えていく。なお、AE測定システムを構成する、高圧発生用のAEセンサ付アンビルが特注品のため、非常に高価なものとなってしまった(1セットあたり約230万円)。予算の問題から、次年度は1セットのみしか追加導入できない見込みである。研究の継続のためにはアンビルの損耗を避ける必要がある(高圧下でのアンビルの使用はアンビルの損耗を早めるため)。そのため、次年度においても上部マントル浅部で多く起きる稍深発地震を研究対象とすることとする。
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