研究課題
本研究課題は、これまでマクロな時間スケールでしか観察されたことのないカンラン石ポストスピネル相転移をはじめとした高圧構造相転移のダイナミクス解明に向けた、X線自由電子レーザーおよびパワーレーザーを用いたフェムト秒時分割衝撃圧縮その場観察実験技術の開発、実験システムの構築・高度化を目的としている。2013年度までには課題遂行に不可欠である装置開発を重点的に行い、X線自由電子レーザー施設SACLA、大型放射光施設SPring-8に整備されたSACLA/SPring-8相互利用施設において、大阪大学光科学研究センターを中心とする研究グループによって導入された40 TWロングパルスポンプレーザーを使用した予備的なポンププローブ測定を開始した。本研究課題では特に、再現性の高いポンププローブ実験に欠かせない精密な試料環境整備を可能にするため、ターゲット試料作成観察システムや各種金属スパッタ装置をはじめとした試料準備用装置群や、ポンププローブ実験に使用する試料ステージやホルダー等を整備した。2014年度も引き続きそれまで整備してきたステージ、ホルダーに改良を加えながら、広島大学、神戸大学、岡山大学からなる研究グループとの共同研究として、地球惑星科学関連物質である石英やカンラン石に関するポンププローブ測定を行った。2013年までに行ってきた予備的な測定をさらに発展させ、ポンプレーザー照射後に遅延時間を変化させながら効率よく試料内部の圧縮状態を追跡できるよう、測定手法や解析方法の高度化を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画に先んじて、カンラン石や石英など単結晶試料のポンププローブ実験がすでに実施できている。さらにポンプレーザー照射後の遅延時間を変化させ、衝撃圧縮下、まさに変形中の試料内部における格子面間隔のサブピコ秒時分割測定も行えており、当初計画していた要素実験技術の確立と予備的な測定が完了している。これまで誰も目にしたことのない、衝撃圧縮下・高歪み速度下におかれた結晶性試料の変形データ収集が本格的に始まり、データの解釈や起きている現象の理解について深く議論できる十分に質の高いデータ収集が可能になりつつある。今後は流体シミュレーションなどによる理論計算との比較を幅広く行い、衝撃圧縮下における塑性変形や破壊現象の理解を深めるため時分割その場観察データの収集を進める。
これまで大阪大学レーザーエネルギー学研究センターにおけるパワーレーザーを使用した衝撃圧縮実験で蓄積されてきた実験方法にならい、また薄膜試料の準備のしやすさやから、単結晶試料をターゲットに使用してきた。回折条件を満足するため試料の設置に高い精度が要求されるものの、単結晶試料からは強度の高い回折シグナルが得られるため、ポンププローブ実験による圧縮試料の観察という観点では一定以上の成果が得られている。しかしながら、石英やカンラン石のように高圧下で構造相転移やアモルファス化が起こる可能性のある物質では、単結晶試料からの強力な回折シグナルに微弱な変化が埋もれてしまうおそれや、測定した変化の原因が何に由来するものなのか判断しにくいというデメリットもあった。そこで今後は、静圧縮実験による高圧データが豊富に存在し、実験圧力範囲では構造相転移を起こさずアモルファス化も起こらないと考えられるサファイヤの多結晶試料についてポンププローブ実験を行い、流体シミュレーションのベンチマークを行うと同時に、衝撃圧縮された試料の変形を精密に観察する。サファイヤは石英やカンラン石に比べ、本研究で使用する測定システムで観察できる格子面間隔の種類が多いため、得られる情報が大幅に増えるというメリットも存在する。等方的な多結晶試料をもちいて理論計算を検証し、衝撃圧縮下における塑性変形や破壊現象の理解を深めたい。
本研究課題で整備する物品のうちX線自由電子レーザー施設で使用するものの多くが、実験機課のたびにテストを進めて半年ごとに再設計を行い改良を加え、高度化する必要がある。そのため設備備品費として計上した基金分は今年度で使用しきらず次年度以降にも使用することとした。
2014年度までに設計・整備し使用している試料ホルダーシステムに改良を加え、これまで反射配置で行っていた回折X線測定を透過配置でも行えるようにする。さらに円滑に実験を行うために複数個用意する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) 備考 (2件)
Physics of the Earth and Planetary Interiors
巻: 未定 ページ: 未定
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https://scholar.google.co.jp/citations?user=1uQ38SQAAAAJ&hl=ja