研究課題
本研究課題は、これまでマクロな時間スケールでしか観察されたことのない高圧構造相転移のダイナミクス解明に向けた、X線自由電子レーザーおよびパワーレーザーを用いたフェムト秒時分割衝撃圧縮その場観察実験技術の開発、実験システムの構築・高度化を目的としている。2014年度までに、大阪大学グループを中心に導入された40 TWレーザー、レーザー衝撃圧縮実験用真空チャンバー、および本課題を用いて整備した試料ステージやホルダー等を用いた再現性の高いポンププローブ測定が可能になり、本格的なデータ収集を始めていた。2015年も引き続き0.6ナノ秒のパルス幅を持つショートパルスレーザーを用いたレーザー衝撃圧縮その場観察実験を進め、広島大学、神戸大学、岡山大学からなる研究グループとの共同研究として、石英やカンラン石など地球惑星科学関連物質に関するポンププローブ測定を行った。特に石英については試料内部の圧縮状態を精密に観察することができ、試料内部で衝撃波が到達した直後の圧縮状態と衝撃波が通過し、圧縮状態から解放される過程における状態の違いを、X線回折測定による構造観察にもとづき明らかにすることができた。さらに年度後半には、新たに導入されたパルス幅10ナノ秒のロングパルスレーザーを使用した衝撃圧縮その場観察実験を行った。その結果、これまでショートパルスレーザーを用いて観察してきた異なる時間スケールで物質の圧縮状態を観察することが可能となり、高圧相転移と思われる構造変化を衝撃圧縮下の石英で初めて観察することができた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に加え、ショート/ロングパルスレーザーを用いたカンラン石や石英単結晶試料のポンププローブ実験が実施できている。特に石英については、単結晶試料を用いて衝撃圧縮下、変形しつつある試料内部における格子面間隔のサブピコ秒時分割測定が完了している。衝撃圧縮下・高歪み速度下におかれた結晶性試料の変形について、起きている現象の理解について深く議論できる、十分に質の高い超高時間分解能データが収集できた。さらにロングパルスレーザーを用いた実験では、高圧相転移と思われる構造変化が衝撃圧縮下の石英について初めて観察されており、これは世界的に見て新規性のある結果である。現在はまだ予備的な測定を行った段階だが、最終年度内の成果発表を目指し、ポンプレーザー照射後の遅延時間を変化させた定量データの蓄積を進める。
現在までに単結晶石英試料について、ショート/ロングパルスレーザーを用いたポンププローブ実験が実施できており、特にショートパルスレーザーを用いた測定に関しては、主なデータ収集が完了している。石英に加え単結晶カンラン石、多結晶サファイヤについても予備的な測定をすでに行っており、今後はこれらの試料について主にロングパルスレーザーを用いたポンププローブ測定を進める。ポンプレーザー種や出発物質を変えることで、超弾性圧縮や単相から単相への相転移、分解相転移など幅広い現象の観察を試み、最終的に総括を行う。実験設備が整い高度化が進んだ結果、再現性の高い定量的なデータ収集が可能になり、2015年度は国内外の学会で本研究課題に関連した発表が数多く行われた。最終年度はより一層成果発表を進める。
本研究課題で整備する物品のうちX線自由電子レーザー施設で使用するものの多くが、実験機会のたびにテストを進めて半年ごとに再設計を行い改良を加え、高度化する必要がある。そのため設備備品費として計上した基金分は今年度で使用しきらず次年度以降にも使用することとした。
ロングパルスポンプレーザーの導入や複数種類の出発物質の使用による様々な構造変化を効率よく観察するために、プラットパネルディテクターの導入計画がある。それにともなうターゲットチャンバーの大幅な改良に使用する。またポンププローブ測定の再現性の高さを生かした高統計データ収集を行うため、精密両面研磨試料を大量に用意する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (4件)
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