研究課題/領域番号 |
25708001
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石内 俊一 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40338257)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 気相分光 / ペプチド / 励起状態ダイナミクス / レーザー脱離 / レーザー分光 |
研究実績の概要 |
25年度に構造を決定したキャップチロシン(Ac-Tyr-NHMe)やチロシンを含むペプチドのS1電子励起状態の寿命測定を行った。前者に関してはシャープ及びブロードな電子スペクトルを与えるコンフォマーが共存することが分かっており、それぞれの寿命を、ピコ秒レーザーによるポンプープローブ法を用いて測定した。その結果、いずれのコンフォマーにおいても1ns程度の寿命であることが分かり、ブロードな電子スペクトルを与えるコンフォマーが特別に短寿命であるということはなかった。この結果から、1)ブロードな電子スペクトルはS1状態での構造変化により多数の振電バンドが立て込んで観測されたためである、2)それぞれのコンフォマーの寿命は発色団であるフェノールの寿命と同等で、ペプチド結合と芳香環の相互作用による短寿命化は起こらない、ということが結論できる。1)に関しては電子スペクトルの計算機シミュレーションでも再現された。また、チロシンのフェノールOH基をHに置換したキャップフェニルアラニンではある特定のコンフォマーでS1状態の短寿命化が報告されており、なぜチロシンでは短寿命化が起こらないのか興味がもたれる。前者の場合、他は数十ナノ秒の寿命であるのに対して、短寿命のコンフォマーでは1nsほどの寿命となっている。この短寿命化は芳香環とペプチド結合との相互作用によるものであるが、それでも1ns程度までしか短寿命化しないことを考えると、チロシンの場合はそもそも発色団であるフェノールの寿命が1nsほどであり、これが律速になっているため、ペプチド結合のとの相互作用による短寿命化が起こっているとしても観測されなかったと考えられる。今後は劇的な短寿命化が期待できるトリプトファンを含むペプチドについて研究を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、チロシンを含むペプチドでは、ブロードな電子スペクトルを与えるコンフォマーではS1状態の寿命が短いと予想していたが、実際にはどのコンフォマーも同程度の寿命であることが分かり、残念な結果となった。しかし、フェノールOH基がないフェニルアラニンを含むペプチドではS1状態の寿命にコンフォメーション依存性があり、たったフェノールOH基が1つあるかないかでなぜそのような違いがあるのか非常に興味深く、このことが分かったことが大きな進捗であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
トリプトファンではプロトン化するだけでサブピコ秒まで寿命が劇的に短くなることが知られており、チロシンやフェニルアラニンと比べると、コンフォメーションの変化が電子励起状態ダイナミクスにより大きな影響を及ぼすと期待される。これはトリプトファンの発色団であるインドール環ではS1状態とS2状態が接近しており、これらの相互作用の大きさがペプチド結合とインドール環の相互作用により大きく影響を受けるためであると考えられる。これまでの研究で、トリプトファンを含むペプチドのトリプトファンC-末端側の構造により電子スペクトルの様子が大きく異なることが示唆されている。そこで、今後はトリプトファンのC-末端側の配列を系統的に変化させることで、電子スペクトルやS1状態の寿命がどの様に変化するかを調べ、S1状態の寿命とコンフォメーションとの相関に関する規則を見出すことを目指して研究を進める予定である。
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