研究課題/領域番号 |
25708002
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北浦 良 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50394903)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / グラフェン / 溶液観察 |
研究概要 |
初年度は、本研究プロジェクトの根幹となる基本技術である高品質グラフェンの成長法およびクリーンな転写法の確立を主対象として研究を推進した。以下、それぞれについて、詳述する。 (1)高品質グラフェンの成長法の確立 グラフェンの成長は、メタンを炭素源として用いる化学気相成長法(CVD)によって行った。近年、極微量の酸素の混入が成長に大きな影響を与えることが報告されたことを受け、新たに導入したリークディテクターによって装置のリークを検出限界以下まで小さくすると同時に、酸素濃度計を導入することで成長中の酸素濃度をモニターした。これによって、酸素濃度を厳密に制御して、グラフェンの成長を行うことができるようになった。 酸素濃度を検出限界以下まで下げた条件下で、水素ガスアニールを行った基板でグラフェンを成長させたところ、結晶ドメイン(サイズは数百マイクロメートル程度)同士がタイトに結合した高品質のグラフェン多結晶膜を成長させることに成功した。単結晶ではないが、ドメイン間の結合性が良いため、膜全体としての品質は高く、基板を溶解除去した後も液面に自立して浮遊させることが可能であった。 (2)クリーンな転写法の確立 転写法には、ポリマーなどの余分な支持材を用いない直接転写を中心に検討を行い、効率および収率良く転写を行うプロセスを確立することに成功した。これは、実験に用いているグラフェンが高品質であることが要因である。結晶サイズの大きな、質の良いグラフェンは、基板を溶解した後も四散することなく安定して液面に浮遊することができる。大面積グラフェンが元の形を保って浮遊しているため、TEM観察用グリッドを直接押し付け、転写することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述したように、初年度で、本研究プロジェクトの根幹となる基本技術である高品質グラフェンの成長法およびクリーンな転写法を確立することに成功した。これによって、高品質のグラフェンを透過型電子顕微鏡観察用のグリッドにクリーンな状態を保ちつつ、転写することができるようになった。さらに、開発した転写法を2回連続して行うことで、グラフェン2層構造も安定して作成できることも明らかになった。グラフェン2層構造は、本研究プロジェクトにおける最重要な基本構造であり、これが安定して作成できるようになったことは、研究プロジェクトの土台を築くことができたことを意味する。溶液の挟み込みについても、検討を進めており、種々の大きさの液滴を挟み込むことに成功している。今後、研究を進めるための基盤技術を概ね確立することに成功したと考えている。以上から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立したグラフェン合成法およびその転写法を最大限に活用し、グラフェン2層構造を定常的に作成していく。特に2年目は、グラフェン2層構造の層間に溶液を挟み込む方法のブラッシュアップを集中的に行い、挟み込む溶液の量を正確にコントロールして、再現性良く溶液を挟み込んだグラフェン2層構造を作成する技術を確立することを目指す。 溶液を挟み込む手法の確立が順調に進めば、溶液の観察に適した観察条件など、観察法の確立に力点を移しつつ、鋭意研究を進めて行きたい。なお、鍵となる観察条件は、試料の温度、加速電圧、電子線照射時間である。これらの条件を系統的に変化させながら、試料観察を行い、目的とする生体分子の直接観察に適した条件を絞り込む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
グラフェンの合成条件および転写法を確立した結果、高品質のグラフェン膜をクリーンに転写することに成功した。このため、プラズマ処理などを経ずとも、表面に付着物の少ないグラフェン試料を準備できることとなった。当初は、プラズマ処理を行わないと、透過型電子顕微鏡観察が困難であると予想していたが、未処理の試料でも十分に予備的検討が可能であることがわかった。このため、初年度に導入予定としていたプラズマ装置の導入時期を遅らせることとした。さらに、実験が極めて順調に進めば、溶液を挟み込む方法の開発に高額消耗品(TEM観察用特殊グリッド)が必要になると考えていたが、合成法と転写法の確立に集中的に取り組んだため、本年度にはあまり必要とならなかった。以上の理由のため、次年度使用額が生じることとなった。 今年度は、グラフェン層間に溶液を挟み込むプロセスの開発を集中的に行う。次年度使用額は、この際に必要となる高額消耗品(TEM観察用特殊グリッド)の購入に当てる予定である。さらに、グラフェン成長実験の進み具合およびクオリティとの兼ね合いで、適切な時期を検討しつつプラズマ装置の導入を検討する。また、グラフェンへの電子線照射ダメージの低減を検討するため、加熱および冷却ホルダーの導入も検討する必要がある可能性がある。実験の進展、透過型電子顕微鏡観察の結果を随時確認しながら、それらの導入時期、機種を適宜判断する。以上のように、予算を利用する予定である。
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