研究実績の概要 |
本研究では、既存のカップリング手法の延長であった、分子結合活性化による直接的カップリング反応を飛躍的に革新を起こす新たな分子触媒を開発することを目的とした。本年度は、1)イミダゾールとフェノール誘導体との直接カップリング反応、2) 芳香族エステルの有機ボロン酸とのクロスカップリング反応 3) 芳香族エステルの脱カルボニル型エーテル化反応 4) 不斉C-Hカップリングの反応機構と配位子効果の解明、5) トリチアゾールピリジン合成法の開発と生物活性分子合成 に着手した。その結果、1はこれまで我々が見出したビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン(dcype)とその誘導体を配位子に用い、溶媒を変更することで進行することが明らかとなった。2は非常に安価なニッケル触媒系でカップリング反応が進行することを見出した。3はdcypeの改良型3,4-ビスジシクロヘキシルホスフィノチオフェン(dcypt)とニッケルを併せ用いたとき、芳香族エステルの脱カルボニル型エーテル化反応が進行することを見出した。さらに芳香族チオエステルを用いることでジアリールスルフィドの合成も可能である。より広範囲な基質で適用できるように改良中である。4は不斉収率の向上を指向し、本反応の反応機構および不斉発現の機構解明研究に取り組んだ。不斉発現における配位子の置換基効果を実験化学により調査すると同時に、共同研究を行い、量子化学計算を用いて反応機構と不斉発現に関する配位子効果を明らかにした。5はチオペプチド抗生物質の主骨格である多置換ピリジンの迅速構築法を確立し、6種類のチオペプチド抗生物質の形式全合成に成功した。。以上のように本研究を通じて、分子結合活性化による炭素ー炭素結合および炭素ーヘテロ結合形成反応の分野の進展に寄与した。
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