研究課題/領域番号 |
25708008
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
村瀬 隆史 山形大学, 理学部, 准教授 (70508184)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自己組織化 / クラスター / 単分子伝導度 / 三核錯体 / 包接 |
研究実績の概要 |
金属配列を自在に設計できれば、金属の種類や数、配置に応じた性質(電気伝導度特性など)の発現につながる。平成26年度は、浅い凹みをもつAu(I)三核錯体を足場として、三核錯体を積層することで、任意のAu(I)三次元配列を構築した。積層数(n)は、溶媒やAg(I)イオンの添加に応じて精密に調節できた(n = 2-4)。 トレー型Au(I)三核錯体は、ピリジル部位がせり上がった構造をとり、この浅い凹みに平面分子を捕らえる。トレー型錯体の水-アセトニトリル(7:3)混合溶液に平面型のAu(I)三核錯体を懸濁させ加熱撹拌すると、ダブルデッカー型のAu3-Au3配列が収率93%で得られた。この構造はNMRとCSI-MSによって明らかにした。一方、水中では2分子のトレー型Au(I)三核錯体が、平面型のAu(I)三核錯体を上下から挟み、トリプルデッカー型のAu3-Au3-Au3配列を定量的に形成した。さらに水中、AgNO3存在下では、Au3-Au3-Ag-Au3-Au3配列を選択的に与えた。NMRとX線結晶構造解析により、Ag(I)イオンは電子豊富な平面型のAu(I)三核錯体の間に存在し、ダブルデッカー型のAu3-Au3配列同士をつないでいた。さらに、Au(I)イオンとAg(I)イオンは近接しており、両者の間に相互作用がはたらいていた。 得られた成果は、第24回基礎有機化学討論会、第95日本化学会春季年会にて発表を行った。さらに、ドイツ化学会誌Angew. Chem. Int. Ed (2014) vol. 53, 11186-11189にて論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に新規に開発したトレー型Au(I)三核錯体について、当初のねらいであったAu(I)三次元配列の積層数の精密制御に成功し、平成26年度内に論文発表できた。電気伝導度の計測の専門家と理論計算の専門家との共同研究を開始できた。一方、他の研究項目については著しい進展はみられなかった。総合的に判断すると、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
金属錯体のみに焦点をあてるのではなく、金属錯体と芳香族分子とのヘテロ積層にも挑戦する。電子ドナー性分子(D)と電子アクセプター性分子(A)の間に働く電荷移動(CT)相互作用を駆動力とする自己組織化は、異なる芳香族分子や金属錯体からなる集積体の構築手法として有力である。電子アクセプター性のホスト空間に2種類の芳香族分子あるいは芳香族分子と金属錯体のペアを包接させることで、A-D-A-A配列をもつヘテロ積層型の芳香族有限集積体や金属クラスターを合成する、合成したヘテロ積層体は、NMR, MS, X線結晶構造解析により、クラスターに含まれる金属イオンの数とその配置を正確に決定する。 ヘテロ積層では、印加バイアス方向に対する積層順序の違い、すなわち整流特性を反映すると考えられる複数の電気伝導度が期待される。電子ドナー性分子と電子アクセプター性分子がヘテロ積層したAviram-Ratner型の単一πスタックに着目し、その分子ダイオード特性の計測や電気伝導度の理論計算を共同研究で行う。 得られた結果を取りまとめ、学会発表や専門誌にて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度はH25年度で開発したトレー型Au(I)三核錯体の研究をまとめることに集中した。H26年度内に論文発表することができた反面、残りの研究課題については進展遅く、購入に要する試薬の代金が当初の予定よりも少なく済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は共同研究を中心に、複数の研究課題について同時進行させる。したがって、さまざまな種類の試薬、また分析機器の購入が必要になる。したがって、残額の助成金は物品費に割り当てる。
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