研究課題/領域番号 |
25708012
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
並河 英紀 山形大学, 理学部, 教授 (30372262)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非線形化学 / 表面・界面物性 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
生体は化学エネルギーで駆動する機械の集合体である。その中で、本研究では生体内の物質輸送機構である化学波を模倣することで、カーボンナノチューブなど極微小細線上での分子輸送も可能となる全く新奇な化学エネルギー駆動型の微小場分子輸送原理を提案する。その目標へ向け、(1)微小空間での化学波の伝搬機構の明確化、(2)化学波の界面電荷波への変換、(3)界面電荷波に捕捉した物質の空間輸送現象の発現・解析、の三つの段階を経て課題の達成を目指す。これにより、生体機能模倣、化学エネルギー変換、単分子操作などの境界領域における新たな現象論を提案し基礎研究としての成果を挙げるとともに、ナノ分子デバイスなどへの応用可能性も開拓する。また、本系はあらゆる界面にて誘起可能であり、カーボンナノチューブ(CNT)表面での単分子輸送も可能となる。CNTには電気回路デバイスとしての先行研究があり、これを分子輸送と融合することで究極の単分子輸送回路とも言える物質輸送回路が提唱され、ナノ分子デバイス研究分野において非常に大きなインパクトならびに独創性を有する研究成果として期待できる。平成26年度は、化学波の伝播特性の自在制御へ向け、反応拡散波と単純拡散波との両者の実験的比較に基づいた考察を行った。その結果として、反応拡散波においては反応過程の速度制御が非常に顕著に系全体のダイナミクス制御へ関与していることを明確化することに成功した。更に、飯能拡散波の発生に伴う反応熱が溶液膨張をもたらし、その力学的エネルギーを利用した物質の空間輸送現象の発現が可能であることを見出した。本成果は、平成27年度にて継続的に検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学波のダイナミクス制御へ向け、単純拡散波との比較により想定を上回る知見を得ることに成功した。つまり、当初は、反応拡散波においては反応活性種の拡散係数および化学反応の反応速度定数で規定された伝播速度が得られることを想定していた。この想定からは、両係数・定数の制御による伝播ダイナミクスの制御のみが可能であることが予想される。しかしながら、反応拡散波と単純拡散波との比較により、化学波である反応拡散波においては輸送空間の変動に対して非常に敏感に依存することを明確化することに成功した。つまり、化学波の伝播ダイナミクスはマイクロ流路の形状等にて制御することが可能であることを実験的に示した。以上の成果は、反応速度や反応活性種の拡散性を規定する化学的条件のみならず、流路形状などの物理的条件からも化学波の伝播ダイナミクスを制御することが可能であることを提案する。これにより、化学波およびそれにより誘起される界面電荷波による物質輸送現象に対し、より柔軟な輸送速度の制御が可能となると期待される。更に、反応拡散波発現時に、マイクロ流路の中の特定の局所領域に反応熱が集中し、これによる反応溶液の体積膨張が発言することも明らかとなった。この体積膨張は界面での物質輸送における力学的駆動力として利用できると期待できるため、平成27年度も引き続き検討することとした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、物質輸送の駆動力として有力な候補である局所的反応熱の発生及び体積膨張現象に関し、サーモグラフィー、顕微分光、蛍光顕微観察などの微視的評価手法を用いて検討を行う。具体的には、サーモグラフィーにて反応拡散波発生時の流路全体の温度変化をin-situで観察する。その際、反応発生領域、波発生領域、未反応領域に区分し、そのそれぞれにおける温度変化を比較することで、反応熱が集中する領域を明確化する。これにより、反応拡散波発生時の熱の変化に関する全体像を確認する。ついで、反応熱発生の源として予想されるプロトン生成反応・プロトン消費反応の時空間的挙動に関して、pH指示薬の吸収スペクトルの顕微分光計測より評価する。特に、前述の三つの領域に対してそれぞれ顕微分光計測を行い、各領域の温度変化と比較する。得られた結果より、プロトン生成反応・プロトン消費反応と熱発生の時空間的対応を確認する。そして、本研究の目的である物質輸送現象に関して、対象とする材料(蛍光色素を添加したマイクロ粒子など)の挙動を蛍光顕微鏡にて追跡し、反応拡散波発生に伴う輸送について定量的な評価を行う。得られた輸送ダイナミクスを、反応拡散波の伝播ダイナミクス、熱発生やpH変化の時空間的特性との比較を行い、輸送現象に対する機構解明を目指す。
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