化学エネルギー駆動型システムの開発は、外部駆動源が必須の物理エネルギー駆動型の制約を取り除くのみならず、特異現象発現の可能性を有しており学術的関心が高い。例えば、マイクロ流路内での物質輸送では外部駆動源のポンプや電極などがシステムの微細化を妨げ、また、更なる微細化には流路内壁への分子吸着が輸送効率を低下させるため、既存の原理に依らない新奇な微小流路特有の方法論への転換が求められている。その中で、本研究では生体内の物質輸送機構である化学波を模倣することで、カーボンナノチューブなど極微小細線上での分子輸送も可能となる全く新奇な化学エネルギー駆動型の微小場分子輸送原理を提案する。特に本年度は、微小空間における化学波伝播による物質の輸送を担う流動現象の可視化ならびに駆動原理の明確化を行った。 具体的には、PDMS製マイクロ流路に流動現象を可視化するためのトレーサー粒子を添加した混合溶液を入れ、inletへ硫酸を滴下してpH波(化学波の一種)を発生させpH波および流動現象を観察した。pH波速度は、すべての流路幅において一定であり、流路幅依存性がないことが確認され、pH波は物質の反応速度および拡散係数により規定される反応拡散現象に起因していると示唆される。一方、流動速度は流路幅増大に伴い低下し、流動現象は流体の形状に依存した流体力学的効果に起因していると示唆された。以上より、本系は非平衡環境下の反応拡散場と流体力学的流動場が時空間的に組み合わさった特異的な場であることが明らかとなり、マイクロ流路内化学波による物質輸送現象の発現機構が流体力学的効果に起因することを明確化した。
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