研究課題/領域番号 |
25708031
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小野田 晃 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60366424)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 燃料電池 / カーボン材料 / 電極触媒 / 多核金属中心 |
研究実績の概要 |
固体高分子形燃料電池は、燃料の化学エネルギーを直接かつ効率的に電気へと変換するデバイスとして重要な技術である。より高効率なデバイス創製に向けて、酸素から水への4電子還元を伴う酸素還元反応(ORR)の高活性な非貴金属カーボン電極触媒の開発が求められている。これまでにFeポルフィリンやCoポリピロールを焼成した触媒や、カーボン担体に金属及び窒素源を吸着後に焼成した非貴金属含窒素カーボン触媒(M-N-C触媒)はORR活性を有することが報告されている。本研究では、高活性なORR触媒活性点を効率的に構築するための戦略として、配位子骨格を分子設計したFe錯体を前駆体に用いてFe-N-C触媒、また、同系列の原料により異種金属を含むM-N-C を作製し、同定及び活性評価を行った。 配位子骨格の異なるFe錯体を原料として、カーボン材料と混合物を触媒前駆体とした。N2気流下で焼成後に、酸洗浄によりFeとNを含むカーボン触媒を得た。Fe-N-C触媒は、金属配位可能なピリジン様構造と第四級を含むことをXPSにより確認した。Fe含有量は0.4~2.3 wt% であり、FeのK端XANESの結果より、Fe成分の化学構造にNが配位した活性点を含むこと、また触媒活性に寄与しない鉄カーバイドも高い割合で含まれることが分かった。FeのK端EXAFSの結果より鉄カーバイドはサブナノクラスターとして存在すると考えられる。対流ボルタモグラムによる評価より、いずれのFe-N-C触媒も高いORR活性を有しており、前駆体のFe錯体に芳香環をより多く含む錯体を原料とした場合に正側にシフトすることを明らかにした。いずれも還元電子数は3.8以上であり、4電子のORRが優先的に進行していることが示された。前駆体の配位子骨格構造を変化させることによって、焼成後のカーボン触媒のORR活性を大幅に向上可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ヘム鉄を含むタンパク質を原料に用いたカーボン触媒での性能結果を踏まえて、さらに高活性なORR触媒活性点を効率的に構築するための戦略として、配位子骨格を分子設計した6種類のFeサレン錯体を前駆体に用いてFe-N-C触媒を作製し、同定及び活性評価を行った。配位子骨格の異なるFeサレン錯体を有機溶媒に溶解後にカーボン材料と混合して、溶媒を留去し、触媒前駆体とした。焼成後、硫酸洗浄し、凍結乾燥によりFeとNを含むカーボン触媒を得た。Fe-N-C触媒はICP-AES、E.A.、XPS、XAFS、TEMにより同定した。 Fe-N-C触媒は、0.5~0.8 wt%のN成分を含むことがE.A.により示された。この炭素骨格に取りこまれたN成分は、金属配位可能なピリジン様構造と第四級を含むことを XPSにより確認した。FeのXANESの結果より、いずれのFe-N-C触媒においても、Fe成分の化学構造にNが配位した活性点を含むこと、また触媒活性に寄与しない鉄カーバイドも高い割合で含んでおり、EXAFSの結果より鉄カーバイドはサブナノクラスターとして存在すると考えられる。 得られたカーボン触媒をグラッシーカーボン電極に塗布、乾燥し、N2及びO2 飽和下、回転リングディスク電極を用いた対流ボルタモグラムにより触媒活性を評価した。対流ボルタモグラム (0.1 M HClO4、pH 1.0) による評価結果から、いずれのFe-N-C触媒も高いORR活性を有していることが明らかとなった。最も活性の高い触媒のオンセット電位は0.86 Vであり、還元電子数は 3.8 以上であり、4電子のORRが優先的に進行した。 現在までに、原料の鉄錯体の構造を選択することにより、焼成後のカーボン触媒の酸素還元反応活性を大幅に向上可能であることを見出しており、おおむね順調にしている。
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今後の研究の推進方策 |
より高活性な非貴金属カーボン触媒を開発するためには、Fe 以外の金属での検討を行うと同時に、効率的な酸素の還元が期待される多核金属中心を構築のための多核錯体原料の探索が重要と考えられる。本年度までに実施した、カーボン電飾触媒の作製・活性評価、また、これら触媒群の構造解析と活性点の形成過程の理解により得た知見を触媒作製にフィードバックして、高活性なカーボン電極触媒の開発につなげていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年11月、コバルトを含む触媒のオンセット電位が、当初の予測に反して、正側にシフトしておらず、その活性が充分でないことが判明した。研究遂行上、このオンセット電位を正側にシフトすることが不可欠であるため、新たに改良したコバルト触媒試料の調製と物性評価を行う必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
コバルト触媒のオンセット電位が、当初の予測に反して正側にシフトせず、活性が充分でないことが判明した。研究遂行上、オンセット電位が正側にシフトすることが不可欠であるため、新たに改良したコバルト触媒試料の調製と物性評価を行う必要が生じた。改良したコバルト触媒試料の活性評価は改良前の活性評価時に一部準備したため当初の期間よりも1ヶ月短く設定した。
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備考 |
完了 2014年8月31日
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