研究課題
若手研究(A)
モット絶縁体に代表される強相関物質の多くは、外部刺激に対して巨大かつ多彩な応答を示すことが知られており、次世代エレクトロニクスの候補物質として期待されている。本研究では、一次相転移を示す強相関物質に特徴的な相競合状態を利用して、微小な電圧で物質の巨視的な相制御を可能にする新しい相転移トランジスタの実現を目指している。研究代表者らはこれまでに、強相関物質VO2では、電界効果による表面への静電的な電荷蓄積に伴ってバルク全体で相転移が起こることを見出しているが、これは従来の半導体トランジスタにはない機能であり、新しいデバイス応用が期待される。VO2電気二重層トランジスタの動作モデルを巡っては国内外で多くの議論があり、研究代表者らが提案する静電モデル以外にも、電気化学反応に起源を求める化学反応モデルなどが提案されている。このVO2における電場誘起相転移現象の理解を深めるために、本年度はデバイス動作中の可視・赤外吸収スペクトル測定およびX線回折・吸収スペクトル測定を行った。その結果、電場印加に伴って薄膜全体のバンド構造および結晶構造が大きく変化すること、また、電場誘起金属相は高温金属相の対称性を保ったままc軸方向に伸びた構造を持ち、バンド構造やバナジウム原子の価数、局所的な原子配置などは高温金属相のそれらに類似していることを示唆する結果が得られた。これらは化学反応モデルでは説明が難しく、静電モデルが支配的であることを示唆する極めて重要な成果である。一方で、電界効果による電子相制御の研究を他の強相関物質にも展開した。超巨大磁気抵抗を示す物質群であるペロブスカイト型マンガン酸化物を用いた電気二重層トランジスタを作製し、電場による巨大抵抗変化を電子・正孔蓄積の両方で実現した。また、酸化物固体絶縁膜を有機単結晶モット絶縁体に適用し、電界効果で絶縁体・超伝導転移を制御することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の大きな目的は、VO2電気二重層トランジスタにおける電場誘起バルク相転移現象の理解を深めて動作機構を明らかにすることと、VO2以外の強相関物質に研究を展開して電場誘起バルク相転移が相競合状態を有する物質系(特に電子-格子相互作用が強い物質系)では普遍的に起こる現象かどうかを検証することである。本年度で得られた成果は、この二つの目的に対して一定の答えを与えるものであり、研究は当初の計画通りにおおむね順調に進展していると考えている。交付申請書に記載した当該年度の研究目的の範囲内では、金属・絶縁体ドメインの生成・消滅過程に対する電場印加の影響を光学顕微鏡観察で明らかにすること、および単一ドメインの電場応答を評価することがまだ未達成であるが、現在測定システムをセットアップして予備的なデータを取り揃えている段階であり、来年度中には問題なく遂行できるものと考えている。
次年度は、まず本年度立ち上げた測定システムを用いて、表面への電荷蓄積がVO2の巨大な金属・絶縁体ドメインの生成・消滅過程与える影響を光学顕微鏡観察から明らかにする実験に取り組み、電場誘起バルク相転移とドメイン形成ダイナミクスの関連性を直接的に検証する。加えて、デバイス動作中のX線回折・吸収スペクトル測定をより詳細に行い、VO2電気二重層トランジスタにおける電場誘起バルク相転移の動作機構の全貌を明らかにする。さらに、VO2の微細化を行うことで電場応答をより巨大化・先鋭化することを目的とした実験を行う。フォトリソグラフィ技術を駆使して電圧プローブ間が数マイクロメートル程度になるようなデバイスを作製し、単一ドメインの電場応答を観測するための技術を確立する。その後、デバイスサイズ依存性や電圧プローブ間に単一ドメイン壁を導入した場合の電場応答などの評価を行うことで、VO2の電場誘起バルク相転移現象に対するドメイン形成の影響を明らかにし、電場応答の巨大化・先鋭化を図る。一方で、本年度に引き続き、電界効果による電子相制御の研究をVO2以外の強相関物質にも積極的に展開し、強相関物質における電界効果の全体像の理解を目指す。その上で、適切な物質を選択することで、電気抵抗以外の物性を電場で制御可能な新しい電界効果デバイスを実現できることを実証する。
本年度の予算では、まずはVO2電気二重層トランジスタを対象として、金属・絶縁体ドメインの電場応答を光学顕微鏡で直接観察するために必要なシステムを整えた。具体的には、試料表面を直接観察しながら極低温まで温度を変化させることが可能なプローバシステムと、電界効果特性の評価に必要なソース・メジャーユニットなどを購入したが、結果的に当初の計画よりも予算消費を抑えることができた。次年度も本年度に引き続いて電界効果による相転移制御の研究を他の物質系へ展開する予定であるが、基本的な電界効果特性の評価を高速に行う目的で、無冷媒のクライオスタットの導入を検討している。当該助成金を翌年度分の研究費と合わせてより高性能のクライオスタットを購入することで、より高速に、かつ質の高い研究を行うことが可能になるものと考えている。
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