研究課題/領域番号 |
25709002
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山中 晃徳 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50542198)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フェーズフィールド法 / 結晶塑性解析 / 有限要素法 / 鉄鋼材料 |
研究概要 |
本研究では、マルチフェーズフィールド(MPF)法を用いた鉄鋼材料中のミクロ組織形成過程のシミュレーション、数学的アプローチ(微分幾何学や位相幾何学)によるミクロ組織の3次元形態の評価、均質化法に基づく結晶塑性有限要素シミュレーションと最適化法を融合し、数値シミュレーションにより高強度鋼の強度や成形性を向上させるミクロ組織形態の最適設計を可能とすることを目的している。 平成25年度の研究は、当初計画の通りに進行し、まずMPF法を用いて実用高強度鋼におけるオーステナイト→フェライト変態挙動とフェライト相の3次元形態を定量的に評価・予測するために、Graphics Processing Unit(GPU)を用いたMPFシミュレーションの高速化を行った。さらに、実用高強度鋼に多い成分であるFe-C-Mn-Si合金におけるオーステナイト→フェライト変態のシミュレーションを可能とするために、過去の研究で構築したFe-C合金を対象としたMPFモデルに、Thermo-Calc.などの熱力学データベースより得られる多元合金の化学的自由エネルギーを導入し、新たなMPFモデルの構築を開始した. 一方、上記のMPF法による鉄鋼材料のミクロ組織形成シミュレーションの研究と並行して、MPFシミュレーションで得られるミクロ組織の3次元形態に基づき高強度鋼の弾塑性変形挙動を評価・予測するための均質化結晶塑性有限要素(HCPFE)解析法の構築を推進した。HCPFE法はミクロ・マクロスケールにおける材料の変形挙動を解析できる非常に強力な計算手法であるが、研究計画当初より懸念されていた計算コストが問題となった。そこで、高速フーリエ変換をソルバーとする結晶塑性解析法を採用することで、ミクロ組織の3次元形態を考慮した鉄鋼材料の変形挙動解析を効率的に実施することを可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、(1)MPF法による多元合金鋼中のオーステナイト→フェライト変態挙動の3次元シミュレーションの高速化と(2)HCPFE法を用いたミクロ組織の3次元形態に基づく高強度鋼の弾塑性変形挙動解析を行うことを計画した。 (1)については、まず複数のGPUを用いたMPFシミュレーションの並列計算手法を開発し、従来よりも効率的にミクロ組織の3次元形態形成過程を解析することが可能となった。また、本並列計算手法を東京工業大学のGPUスーパーコンピューターTSUBAME2.5に実装し、Fe-C合金におけるオーステナイト→フェライト変態の超大規模計算を可能とした。これにより、実験で観察されるミクロ組織形態と計算結果の直接比較が可能となった。また、実用高強度鋼に多い成分であるFe-C-Mn-Si合金におけるフェライト変態のシミュレーションを可能とするために、熱力学データベースThermo-calc.と連携したMPFシミュレーションのためのプログラムの開発に着手した。 (2)については、MPF法で予測したフェライト相形態を含むフェライト+マルテンサイト2相(DP)鋼の引張変形挙動をHCPFE法を用いて解析した。これにより、フェライト相形態に依存したDP鋼の弾塑性変形挙動を解析することが可能となった。しかしながら、実際のDP鋼の変形挙動を予測するためには、ミクロ組織の3次元形態を考慮したシミュレーションを行うべきであるが、HCPFE法は計算コストが大きいことが問題となった。そこで、高速フーリエ変換をソルバーとする結晶塑性解析法(CPFFT法)を採用し、計算コストを大幅に低減することに成功し、MPF法で予測したフェライト相の3次元形態をユニットセルとするDP鋼の3次元弾塑性変形挙動解析が可能となった点は大きな成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究においても、当初の計画通りに推進する。すなわち、平成25年度の研究成果と今後の研究により、高強度鋼中のフェライト相の3次元形態および分布を精度予測することが可能になる。しかしながら、フェライト相以外の硬質相(例えば、焼入時に形成するマルテンサイト相)の形成予測には、検討の余地がある。現在では、未変態のオーステナイト相はすべてマルテンサイト相に変態するという仮定を置いており、来年度の研究課題であるが、次年度の研究により、未変態オーステナイト相における合金元素濃度の予測精度が向上すれば、硬質相への変態挙動の予測が可能となると考えている。 また、今年度の研究により、CPFFT法を用いることでミクロ組織の3次元形態を考慮したDP鋼の弾塑性変形挙動のシミュレーションが可能となった。そこで、次年度においては、計算結果の妥当性評価のための実験的検証が必要であると考えている。そこで、東京農工大学桑原研究室の協力のもとDP鋼の材料試験を実施することで実験データを取得し、得られた応力-ひずみ曲線や電子顕微鏡観察と計算結果を比較することで、CPFFT法の改良とシミュレーションで用いるパラメータの同定を行い、シミュレーションの精度向上を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議への海外出張旅費を他予算から支出しため、次年度予算額が生じた。 次年度予算額は、研究成果発表のための海外出張旅費に使用する計画である。
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