EPMAによるフォトクロミズム結晶の組成分析及びXRD構造分析を行い、得られた結果をリートベルト解析により構造の決定を行った。構造は酸化亜鉛そのもので、結晶の空隙にシリコン原子が固溶しているような構造が得られた。EPMAによる組成分析と比較すると亜鉛シリコン酸化物のシリコンの比率が高いがこれはEPMAの結果がある程度大きな領域の平均を示していることから酸化亜鉛と亜鉛シリコン酸化物の粒子が凝集していると考えることで以前の電子顕微鏡画像とも整合性がとれる。またこのフォトクロミズムの発現箇所が酸素雰囲気中の加熱により変化することがあることから酸素欠陥が重要な要因であることが予測された。本年度は並行して量子化学計算により電子状態の探索を行った。構造解析の結果を元に30原子程度のクラスターを準備し酸化亜鉛及び亜鉛シリコン酸化物の電子状態とイオン化ポテンシャルの計算を行った。興味深いことに酸素欠陥が導入されることで酸化亜鉛のイオンかポテンシャルが大きく減少し、亜鉛シリコン酸化物結晶とのエネルギー的な位置関係が逆転する。そのためシリコン固溶により形成されたトラップ準位に電子が励起されるとペアとなるホールは酸素欠陥がないときはそのまま亜鉛シリコン酸化物内に留まるため電子―ホールの再結合が起こり現象としては何も起こらない。一方、酸素欠陥が導入されると亜鉛シリコン酸化物中に形成されたホールはエネルギー的な坂道を登る(ホール的にはエネルギーが減少する)こととなり、電子とホールの分離が実現する。このことから安定的に存在できエレクトロクロミズムが起こるものと予測される。しかもこのホールの安定度は0.1 eV程度と非常に小さく300℃程度の熱処理によりエレクトロクロミズムによる着色が消失してしまうこととも整合性がとれることとなった。これらの新しい知見に関しては現在ジャーナルに投稿中である。
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