研究課題/領域番号 |
25709022
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 大 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00531873)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 解析・評価 / 電子・電気材料 / 誘電体物性 / 電子デバイス・機器 / 長寿命化 / 界面 / 分極 / 絶縁体物性 |
研究実績の概要 |
本課題は、研究代表者が世界に先駆けて実現した光EFISHG法を拡張し、有機EL素子中での実空間でのキャリア挙動を評価できるばかりでなく、エネルギー空間でのキャリア挙動も同時に評価する新しい評価システムの実現を目的としている。研究期間後半となる平成27年度は、前年度までに光刺激及び熱刺激の方法によるエネルギー空間でのキャリア挙動評価を実現した光EFISHG測定系を用いて、有機EL素子(IZO/a-NPD/Alq3/Al構造素子など)の評価に取り組んだ。この結果、正孔輸送材料であるa-NPDの界面で、印加電圧が高い領域ではトラップ準位へ捕獲され、光学的に評価できることを実証した。また、熱刺激電流によるトラップエネルギー評価を光EFISHG法と組み合わせた測定では、トラップキャリアの凍結を、キャリアのつくる空間電荷電界として検出できることも実験により確認できた。a-NPDと比較のために、pentaceneでも同様の評価を行うと、pentaceneではトラップ電荷の形成にもかかわらず空間電荷電界がほとんど形成されないことがわかった。これは、有機EL素子に利用されるa-NPDが、大きなバンドギャップをもつことで、より誘電体的側面の大きい材料としてデバイス中で動作していることを示唆するものである。現在光EFISHG法では、トラップキャリア密度10-8 C/cm2の測定精度で検出できる。測定下限はプローブ光のパルス幅に比例して向上可能で、短パルスのレーザーの使用でさらに3-4桁の精度向上が見込まれる。このほか、当該年度には、注入電極をPEDOT:PSSとした素子(PEDOT:PSS/a-NPD/Alq3/Al)と、正孔注入層としてpentaceneを挿入した3層積層構造素子(IZO/pentacene/a-NPD/Alq3/Al)についても測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、積層型有機ELの輝度劣化を引き起こすトラップ準位について、光EFISHG法を拡張することで、実空間・エネルギー空間の両面から評価を行うことができる、材料・デバイス評価のための新しいシステムの構築である。 本年度は、研究計画に従い、EL輝度劣化現象をフィルタリング法により解析することで、初期状態に戻すことができる指数関数型の輝度劣化現象と、初期状態に戻すことができないn乗則の絶縁破壊現象を切り分けた上で、拡張した光EFISHG法によるキャリア挙動の測定・解析を進めることができた。また、有機EL素子の高性能化のために、積層膜構造だけではなく、共蒸着により作製する混合層も用いられる。EFISHG光ではプローブ光波長を選択することで材料選択性があり、この特徴を活かして積層膜構造中の特定の層内部の電界測定を実現しているが、同じように混合層でも特性の材料内部の電界を測定可能であることを確認した。また、光EFISHG法に電荷変調分光法(Charge modulation spectroscopy: CMS)を組み合わせた測定では、トラップ準位のエネルギーが、分子固有のHOMO-LUMOギャップとは異なるエネルギー準位であることを反映して、光EFISHG法で測定する有機膜-有機膜界面の蓄積電荷が、界面をつくる2つの有機膜のどちら側の有機膜に注入しているのかを分別するのに役立てられることも見出した。本研究では主に界面トラップ準位に着目して研究を進めてきたが、光EFISHG法により有機半導体層のバルクでのトラップ準位も評価可能と考え、TOF法やCELIV法などのバルク内部の輸送過程を評価する手法との組み合わせについても検討し、測定系を構築して積層膜有機デバイスに対して実験を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度である平成28年度は、光EFISHG法による実空間・エネルギー空間でのキャリア挙動評価システムについて、これまでに得られた測定結果を統括する。現在の技術的制約でのシステムの測定精度を検討し、将来の要素技術の向上による改善も見通して、本手法で技術的にカバーできる測定範囲を見極める。実空間の測定システムとしてはトラップキャリア密度の測定精度については良く評価できているものと考えており、本年度はエネルギー空間での測定レンジ、測定精度を評価して研究を進める予定である。これにより、光学的手法の特徴を活かして、従来の電気的手法の限界を超えた新しい測定手法として確立する。
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