光動作型の水素生成・分離一体型薄膜(水素生成・分離膜)を用いた光誘起高純度水素発生に関する研究を実施した。この水素生成・分離膜は「燃料改質部」であるTiO2ナノチューブアレイ(TNA)と「水素分離部」であるパラジウム(Pd)膜との二層構造(TNA/Pdメンブレン)から構成される。 陽極酸化と無電解めっきを組み合わせた全電気化学的手法で形成したTNA/Pdメンブレン(膜厚数μm)に対し、メタノールと水の混合物を燃料源として、大気圧に近い条件下での光誘起高純度水素生成速度や実効的な量子効率の評価を行った。本年度は新たにメンブレンの温度可変機構を構築し、温度制御下で測定を実施した結果、室温付近での量子効率は0.1%未満と小さい値であったが、メンブレン温度を65℃にすることで量子効率が約0.6%まで向上した。依然として、パラジウム膜における水素透過過程が水素生成量を制限しており実用化には程遠い状況にあるが、水素・生成分離膜の動作条件の最適化に向けて、その特性評価技術の確立に至った点は重要な成果である。 新規材料探索については、陽極酸化で作製した酸化鉄ナノチューブアレイ(FNA)に白金(Pt)を担持した試料に対し、高真空下での気相メタノールの光触媒分解過程の観察を行い、可視光照射に伴う水素生成を検出した。また、分光測定も実施し、Pt担持したTNA試料と比較して顕著な可視光応答性が確認され、酸化鉄自身の電子物性が寄与した現象であることを確認した。従来の液相反応系では、外部からの電圧印加が無い状況ではFNA表面に可視光を照射しても光触媒水素生成は生じない。従って、今回観測した結果が気相反応系ならではの現象であることが示唆され、更なる追跡とそれに伴う新しい学理の構築が大いに期待される。 以上のように、光動作型の水素・分離膜を用いた高純度水素生成の高効率化に向けた有益な成果を得た。
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