平成28年度は、前年度に明らかになった寄生容量の低減に関して、理論計算とともに素子作製を行った。寄生容量においては、そもそも基板として導電性基板を用いていた場合ではどのように素子構造を工夫しても改善されないことを明らかにし、半絶縁性基板への切り替えを行うこととした。その上で、ワイヤー長さの短縮によるインダクタンスの低減とともに、コレクタベース間の容量低減が必要なことを明らかにし、共振器長を短くすること、そして最適なドーピング濃度があることを明確にした。一方でその容量低減に適したドーピング濃度を現行構造にそのまま適応した場合、電圧変調における光出力の増減に必要な電圧値が増大することが指摘されたが、ベース層バンドギャップの変更により、2V程度で4dB程度の消光比を確保できることが分かった。 一方で、作製においては、前述の半絶縁性基板への切り替えのため、プロセス変更を行った。特に表面からベース・エミッタ・コレクタの三端子とも確保するため、メサ形成プロセスの改善を行った。結果、半絶縁性基板上の長波長帯トランジスタレーザとして初めての室温連続発振を達成するとともに、メッキの導入により40°Cまでの環境温度での発振も実現することができた。また電流増幅率も前回より大きい0.3-0.4程度を保つことが出来た。 電圧変調測定においては、導電性基板においては、反射成分が大きく1GHz以下の周波数においても10dB以上の反射成分が検出されていたが、半絶縁性基板を導入することにより、これまでの倍以上の帯域を実現することができた。 以上より、まだ実際の素子性能としては十分なものは実現できていないが、理論的に電圧変調で高い変調効率を実現できること、そしてその設計指針を明らかにし、素子作製に向けた道筋が見えたと言える。
|