本年度は,提案しているパッシブMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送についての研究成果を様々な角度から取りまとめた。パッシブMIMOでは,端末側は発振機を持たずに可変負荷のみを装荷した無給電のアレーアンテナを用い,受信側は一般的なマルチアンテナの受信機を用いる。そのようなパッシブMIMO伝送では端末側の素子数が増加するほど伝送速度を向上させることができるが,その一方で受信側では信号の復号がより困難なものとなる。これは多素子化が進むと,各アンテナ素子から反射される信号の組み合わせが指数的に増加するためである。本研究ではその問題に対し,素子をグループ化することでグループごとに簡易復号を実現する方法を提案した。これにより,復号時に考慮する信号の組み合わせ数を大幅に減少することができるため,飛躍的に復号に要する演算量を削減することが可能になる。また,受信型ではコンスタレーションが複雑化するため信号点の近接による誤検出が発生するという問題があった。これに対して受信アレーアンテナ数を増加することでダイバーシチ効果を利用し誤検出を低減する方法に取り組んだ。特にアンテナ素子数は,無給電である端末側を12素子,リーダである受信側を12素子とした,12×12素子の伝送レートの評価を行った。このような素子数でパッシブMIMO伝送を実施した検討は世界初であり,実際にエラーフリーの伝送を行うことが可能であることを実証した。以上のような手法を総合的に活用し,究極に多素子化を図った伝送実験結果について取りまとめた。
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