研究課題/領域番号 |
25709032
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
水野 洋輔 東京工業大学, 精密工学研究所, 助教 (30630818)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光ファイバセンサ / ポリマー光ファイバ / プラスチック光ファイバ / ブリルアン散乱 / 歪・温度分布センサ / 非線形光学 / テーパー加工 / ガラス転移温度 |
研究実績の概要 |
27年度は、(1) ポリマー光ファイバ(POF)の温度メモリ効果の実証と特性解明、(2) POFの新たなテーパー加工法の提案と最適化、(3) POFの組成によるブリルアン特性の制御、(4) 折り曲げたPOFによる屈折率センシングの実証、(5) POFを用いた分布型歪センサの簡素化、(6) POF中のモード間干渉を用いた温度センシングの感度の劇的向上、などの成果を収めた。以下、それぞれについて詳述する。 (1) 26年度までに、POFに局所的に大きな歪を印加すると、塑性変形によりPOF自身が印加歪の位置と大きさを記憶する効果の存在を明らかにしていた。27年度は、ガラス転移温度付近の高温にPOFが局所的に晒された場合にも、同様のメモリ効果が存在することを確認し、光時間領域反射計を用いた分布測定によって、その有用性を明らかにした。(2) 外部熱源を用いずに、高パワーの伝搬光による内部発熱を利用したPOFのテーパー加工法を確立し、各種条件を最適化した。また、熱湯を用いたPOFのテーパー加工にも成功し、分布測定に重要となる長距離加工に道を拓いた。(3) 慶應義塾大学と共同で、高分子材料の特性を活かし、POFの組成を調節することでブリルアン周波数シフトなどのセンシング特性を制御できることを明らかにした。(4) POFを折り曲げた箇所に生じるエバネッセント波との相互作用により、外界の屈折率を測定する手法を開発した。(5) シリカ光ファイバとPOFの境界におけるフレネル反射光をシステムの参照光として積極的に利用することで、分布型歪・温度センサの実験系における従来の参照光路を撤廃し簡素化に成功した。(6) POF中のモード間干渉の感度は、POFをガラス転移温度付近の高温に晒すと劇的に向上することを明らかにした。以上のように、POFの非線形現象に基づく技術開発を中心に多方面で研究の進展が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究全体の最大の目標である「POF中のブリルアン散乱を用いた歪・温度の分布測定」自体は26年度に達成したが、実用に向けた課題は多く残されていた。その一つがPOF独自の利点である「メモリ効果」の特性解明であった。27年度は、従来知られていた歪メモリ効果と並んで、温度メモリ効果が存在することを証明し、その有用性を分布測定により示すことができた。また、簡素な測定系を構成することで実装コストの低減にも成功したが、これは実用化に向けての意義が大きいといえる。 また、我々の研究成果に触発され、POFのブリルアン散乱を用いた分布測定には世界中で研究がされ始め、競合相手の多い分野になりつつある。このような新しい研究分野を構築しつつあることは、学術的見地からも極めて順調に研究が進展していることを裏付けている。 さらに、我々の研究には複数の企業から共同研究の打診を受けており、一部はすでに開始している。このことは、本研究が独りよがりではなく、実社会への貢献度が高いことを評価頂いたものであるといえる。 以上の理由から、本研究は当初の計画以上に親展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、(1) POFの長距離テーパー加工法の確立、(2) POF中のブリルアン散乱を用いた歪・温度分布測定の高速化、(3) POF中のラマン散乱の観測とセンシング特性の評価、(4) POFヒューズ伝搬の実時間観測、などが挙げられる。以下、それぞれについて詳述する。 (1) 27年度までに、POFの比較的低いガラス転移温度を利用し、熱湯に浸して引張することでテーパー加工が可能であることを示したが、詳細な実験条件の検討は不十分であった。そこで今後は、テーパー加工の制御性向上や加工距離の延伸を目的として、装置や実験条件の最適化を推進する。(2) 従来のブリルアン散乱に基づく光相関領域反射計を高速化し、これをPOFに適用することで、POFに沿った歪や温度分布の実時間計測を実現する。動作の高速化には2つの方向性を考えており、1つは、電気スペクトラムアナライザの周波数掃引昨日を電圧制御発振器により代替し、取得したスペクトルに対して正弦波近似による位相検波を施すことで、歪や温度の情報を得るものである。2つ目の方向性は、ブリルアン散乱スペクトルの傾斜を利用し、スペクトル全体の代わりにある周波数成分のパワーのみを抽出することで歪や温度の情報を得るものである。(3) 27年度までは主にPOF中のブリルアン散乱特性の歪・温度に対する依存性を利用した研究を進展させてきたが、ラマン散乱特性もガラス光ファイバにおいてはお温度に依存することが知られている。そこで、POF中でもラマン散乱を観測し、そのセンシング特性を調査する。両者の散乱現象の併用により、歪と温度の分離も可能となると期待できる。(4) 27年度までに特性解明を行ったPOFヒューズ現象について、その伝搬位置を実時間で検出する手法を開発する。特に、パワー変動への依存性が小さく安定した手法の開発を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、プラスチック光ファイバ(POF)のテーパー加工のために、共同研究先(企業)のテーパー加工装置を貸与頂き、高価なフィラメントのみ我々の目的に合ったものに新調して研究を進める予定であった。しかし、共同研究先の方針転換により、当該装置の使用が困難になったため、伝搬光による内部発熱を用いた手法や熱湯を用いた手法の開発に力を入れることとなったが、これらの手法は比較的安価なコストで実装が可能であった。また、ブリルアン散乱およびレイリー散乱に基づく光相関領域リフレクトメトリについて、当初の計画にはなかったシステムの簡素化手法に思い至り、実用化を踏まえた当初の目的の達成のためにも、簡素化を推し進める方が得策であると考えた。以上のように、研究の進捗や状況変化を踏まえた判断により、当初の計画で購入すべきと判断したデバイス類全てを購入するには至らなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、本研究の目的を成就するのに必要な、光学プリアンプや、リアルタイムデジタルオシロスコープ、電気スペクトラムアナライザ、高速フォトダイオードなどの購入に充てる計画である。
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備考 |
本学の教育改革に伴い、(1)(2)の両webページは本年度中にURLが変更になる可能性がある。
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