本研究では,水系感染症の事例が世界中で増加しているにも関わらず,生体外での効率的な培養法が未確立なことから,浄水処理性に関する知見がほとんど得られていないノロウイルス,サポウイルス,E型肝炎ウイルスについて,野生ウイルスと構造的・抗原的に等しいウイルス外套タンパク粒子(VLPs)を作製し,作製したVLPsの高感度定量法を開発することにより,培養不可能なノロウイルス,サポウイルス,E型肝炎ウイルス粒子の物理的な浄水処理性を,培養法の確立を待つことなく世界に先駆けて詳細に評価することを目的とする.また,ウイルス処理に有効な新規凝集剤を開発し,インライン凝集-MF膜ろ過処理に適用することにより,ウイルス処理の更なる高度化・高効率化を図ることを目的とした. 本年度は,凝集沈澱-急速砂ろ過処理及び新規凝集剤を用いたインライン凝集-MF膜ろ過処理におけるアデノウイルス,コクサッキーウイルス,A型肝炎ウイルス,マウスノロウイルスの処理性を詳細に調べた.塩基度50%のPAClを用いた凝集沈澱-急速砂ろ過処理においては,凝集pH 7の場合に約2 logの除去率が得られた.一方,アルミニウム13量体や30量体を多く含む新規凝集剤を用いたインライン凝集-MF膜ろ過処理においては,凝集pH 7の場合のみならず,塩基度50%のPAClやalumを用いた場合に2 log以下の除去率であった凝集pH 8の場合においても,4 log以上の高い除去率が達成された.従って,新規凝集剤を用いたインライン凝集-MF膜ろ過処理は,水系感染症ウイルスを効果的且つ効率的に処理可能であることが示された.
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