研究課題/領域番号 |
25709045
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤井 学 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (30598503)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 鉄 / 反応速度論 / 鉄摂取モデル / 藻類 / 実環境 |
研究概要 |
H25年度における研究は、年間を通した野外定期調査による鉄の化学動態とそれに影響を及ぼす環境・水質因子の時空間的な変動範囲解明に重点を置き、研究を進めた。具体的には、相模川流域における定期調査や腐植物質の抽出を行い、鉄や微量金属の化学動態、その他重要な環境・水質項目について調べた。酸素・過酸化水素による鉄の酸化反応、光エネルギーによる還元反応について反応速度定数を算出し、水質・環境項目と比較検討した結果、水質の中でも有機物含有量やpHがこれらの酸化還元反応に影響を及ぼし、季節・空間変動が大きいことが明らかとなった。これは、鉄に配位する有機リガンドや水酸化物イオンが、鉄の酸化還元電位に大きな影響を及ぼすことを示している。さらに、相模川流域で採取した河川水・ダム湖水と下水処理水を比較してみると、特に下水由来有機物が鉄の酸化動態に影響を及ぼす(酸化を速める)ことが明らかとなった。これは、今までに明らかにされたことのない新たな知見であり、下水処理水が自然水中の微量金属の動態や生物利用性に影響を及ぼしていることが示唆された。また、H26年度においては、アオコ藻類に対して放射性鉄を用いたバイオアッセイを行うが、H25年度では実験室内においてアオコ藻類培養系を確立した。これにより、アオコの鉄摂取に影響を及ぼす水質パラメータ等を明らかにする、バイオアッセイが次年度以降可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究は、おおむね順調に進展していると判断する。本研究の目的は、反応速度論モデルに実環境中で生じうる新たな反応を組込み、実環境に即した藻類の鉄摂取モデルを構築することである。この目的の達成のため、本研究では課題1~4を設定した。3年間の研究計画のうち、初年度のH25年度は、課題1~3を対象として研究を進めた。課題1では、年間の野外調査から鉄の動態に及ぼす環境・水質範囲を特定すること、課題2では、水質の中でも腐植物質と藻類代謝物に着目して、その高度化学分析をすること、課題3では、この二つの物質が鉄の化学動態に及ぼす影響を定量的に評価することである。当初の計画通り、課題1では80%程度、課題2では50%程度、課題3では20%程度のタスクを達成できたと考えられる。来年度は課題1~2を完了させるとともに、課題4の鉄摂取モデルの構築にも着手していく予定である。以上の課題を達成することで、腐植物質の多様性や藻類代謝物の影響を考慮した、実環境中での鉄のキネティックモデルと藻類の摂取機構解明を行う。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、H25年度の研究では特に大きな問題を生じることなく、各研究課題を遂行できたと評価する。今後の推進方策としては、従って、当初の計画通り、課題1~3を継続的に進めるとともに、課題4に着手することとする。ただし、課題2の高度化学分析に関して、腐植物質や藻類代謝物質が期待されたほど抽出できず、高度化学分析(NMR等)に十分量確保できない可能性もある。その場合、当初予定していたNMRやFTIRなどサンプル量が必要な分析でなく、蛍光法や吸光度法などサンプル量が比較的少なくて済む分析をし、上記有機物の性質評価を行っていきたいと考えられる。実際に、NMR等で観測される有機物の官能基量は、蛍光法や吸光度法など比較的簡易な分析結果から推測可能であることが我々の最近の実験から明らかになっていく。このような、追加解析を駆使することで、回収可能なサンプル量に応じた有機物の性質分析を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、鉄の酸化還元反応をケミルミネッセンス測定装置により測定している。H25年度の中ごろから装置の作動状況が不安定になり始めたため、修理も難しいという判断から、その装置の更新を検討してきた。当初はH25年度中に装置を更新する予定ではあったが、海外からの輸入ということもあり、仲介業者の選定や見積もり、納期確認に時間を要した。そのため、H26年度への購入に延期した。従って、H25年度の学術研究助成基金助成金のうち93万円程度残し、平成26年度分予算とあわせてケミルミネッセンス測定装置の購入に充てる。 平成26年度分予算とあわせてケミルミネッセンス測定装置の購入に充てる。
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