本課題は、研究代表者がこれまでに開発した反応速度論モデルに実環境中で生じうる新たな反応を組込み、実環境に即した藻類の鉄摂取モデルを構築するものである。平成27年度では、課題3「環境・標準試料を用いた鉄の速度論・摂取試験」と課題4「反応速度論に基づいた実環境の藻類鉄摂取モデルの構築」を中心に取り組んだ。鉄摂取実験に先立ち、前年度までに得られた速度論データや環境・水質パラメータを用いることで,実環境を対象とした鉄の速度論モデルを構築した。さらに感度分析を行うことで,腐植物質が鉄の結合リガンドの場合,光もしくはキノンによる第一鉄の還元反応ならびにリガンドと鉄の錯形成反応が生物利用可能な鉄形態の生成に重要であることが示された。相模川から採取した水試料を用いて,アオコ藻類であるミクロキスティスを対象に放射性同位体鉄の摂取試験を実施した。その結果,ミクロキスティスによる鉄摂取をミカエリス・メンテン型の鉄摂取モデルにより表現可能であることがわかった。さらに,鉄摂取の半飽和定数は,複数の環境試料水中の鉄濃度よりも高く,ミクロキスティスの鉄制限が一部確認された。これは,淡水中においても鉄が十分量存在せず,成長もしくは代謝制限因子となることを示唆している。反応速度論モデルから,生物利用可能な鉄の生成において鉄の還元や解離反応は十分に速やかに生じている一方で,全溶存鉄濃度が低いことが主原因で鉄制限が生じていることが示された。流域土地利用や人為的な影響に関して,下水処理水中では全溶存鉄濃度が高く,鉄の生物利用性は十分に高いが,人為的な影響の低い上流域における湖水・河川水では,鉄の生物利用性が比較的低い値を示した。以上より,本研究は反応速度論的手法を用いて流域人間活動が下流の鉄の生物利用性に及ぼす影響を評価したものであり,その成果は微量金属の物質循環を考慮した流域管理の実現のために有益と考えられる。
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