最終年度となる今年度は、研究成果の社会普及に向けた具体的な成果物として、種々のデフォルト設定値の整備を進めた。自然採光性能及び空調エネルギー消費量に大きな影響を及ぼす窓に関して、窓面積率(WWR:Window to wall ratio)に関して、日本における最適デフォルト設定値のマップを、研究代表者らがシミュレーションを用いて整備したデータベースに基づいて作成した。なお、今回は仮想建築物のシミュレーションデータを用いているが、BIMによる建築情報のデータベースが整備されることで、本研究が開発したロジックで統計的な資料整備が可能となる。このため、既存のBIMソフトウェアにおいて、その建材情報から自動的にWWRを方位別に算出するプログラムも開発した。デフォルト設定値はシミュレーションの初期値であり、その値は設計の進行と共に更新されていくことを前提とする。近年の採光設計においては年間シミュレーションを用いた評価指標(例えばDaylight Autonomy)を用いて最適化することが一般的となった。ただし、計算機技術が劇的に発展したとはいえ、現時点では年間シミュレーションにはそれなりの計算負荷がかかり、最適化計算における繰り返し計算の回数を最小化する方策が必要である。そこで、本研究のデフォルト設定値の最適化が有効に作用すると共に、本研究課題では昼光率とDaylight Autonomyの対応を同じく既往建築設計の情報から引き継ぎ窓配置に対応した応答局面を作成することで、その最適化の計算負荷を大きく抑制する手法を開発した。自然換気計画に関しては、設計開始時に利用するデフォルト設定値としての目標換気回数の資料整備を進めると共に、その開口面積のデフォルト設定値を決定する手法をnet Thermal Autonomyという概念を提案することで実現した。
|