都市化の進展により多くの都市で局所的な気候変動が起こっており、都市気候問題として顕在化している。都市気候は都市の存在に起因する局所的な気候変動であり、ヒートアイランド現象、大気汚染等が含まれる。 海陸風循環は沿岸都市の都市気候形成や大気汚染物質の輸送過程に多大な影響を及ぼすため、その挙動を正しく評価する必要がある。しかし上空の風環境の観測データは限られており、観測データの蓄積は意義がある。平成28年度は春期を対象に、北九州・福岡大都市圏の中核である福岡県福岡市に位置し、博多湾の海岸線より約6kmの距離にある九州大学大橋キャンパスに於いて、都市上空の風環境の観測を行った。観測にはリモートセンシング機器のドップラーライダを用いて、細かい時間分解能で都市上空の風環境の観測を行った。平成27年度は夏期に同様にドップラーライダを用いて都市上空の風環境の観測を行ったが、季節を変えることにより、異なる条件でのデータを得ることが出来た。 一方、都市化の進展が北九州・福岡大都市圏の気候変化に与えた影響を、数値シミュレーションにより検証した。過去の観測値と現在の観測値の比較は、地球規模での気候変動の影響と、都市規模での都市気候の影響の双方を含むため、単純に比較出来ない。それに対して数値シミュレーションであれば、気象条件の初期条件・境界条件は同一としたまま、都市化の進展のみを地表面境界条件として変更することにより、地球規模の気候変動の影響を排し、都市化の影響のみに着目した解析が可能である。国土数値情報土地利用データの内、昭和51(1976)年と平成21(2009)年を用いて都市の性状を再現し数値シミュレーションを行った。その結果、約30年間の都市化の進展により、ヒートアイランド現象が進むだけでなく、福岡の都心部に吹き込む海風が弱まる可能性が示唆された。
|