研究課題/領域番号 |
25709073
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
下山 裕介 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (30403984)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 眼科ドラッグデリバリーシステム / 超臨界含浸 |
研究概要 |
ソフトコンタクトレンズに薬物を含浸させたドラッグデリバリーの作製において,超臨界二酸化炭素を含浸溶媒として利用する技術を適用した.薬物のモデル成分としてサリチル酸を,コンタクトレンズには,含水率59%の高含水性のHilafilcon Bを用いた.予め薬物とコンタクトレンズを導入した含浸セルへ高圧二酸化炭素を供給し,薬物を高圧二酸化炭素に溶解させ,コンタクトレンズに接触させることでドラッグデリバリーレンズを作製した.作製したドラッグデリバリーレンズについて,pH 6.8のリン酸緩衝水溶液中において, ドラッグデリバリーレンズからの薬物放出量の測定を行った.10~30分毎に8時間,水溶液中の薬物濃度を紫外可視分光光度計により測定した.水溶液中で作製されたレンズでは,約10分程度で, サリチル酸がすべて放出されるのに対して,高圧二酸化炭素中にて作製したドラッグデリバリーレンズでは,約400 分程度で放出される徐放性が示された.また,圧力が増大するに伴い,レンズ中のサリチル酸が増加する相関性がみられた.さらに,高圧二酸化炭素に対するサリチル酸の溶解度と,ドラッグデリバリーレンズ中の含有量には,線形的な相関性があることが確認された。このように,高圧二酸化炭素を利用したドラッグデリバリーレンズの作製条件と,薬物放出挙動ならびにレンズ中の薬物量との関連性を把握した.超臨界含浸法を利用したドラッグデリバリーレンズの作製においては,用いるコンタクトレンズがハイドロゲルであることから,高圧下における二酸化炭素+水系の相平衡挙動を把握することも不可欠となる.本研究では,上述した超臨界含浸法によるドラッグデリバリーシステムの作製とともに,状態方程式を用いた二酸化炭素+水系の相平衡理論モデルの構築にも着手しており,分子間相互作用と相平衡計算精度との関連性について検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超臨界二酸化炭素を含浸溶媒として用いた眼科用のドラッグデリバリーシステムの作製においては,超臨界二酸化炭素に対する薬物の溶解度と,レンズ中の薬物量との関係に相関性があることを確認した.また,物質移動の理論モデルを用いて,超臨界含浸法による作製されたドラッグデリバリーレンズから,水溶液中への薬物放出(拡散)に関する理論解析を行い,ドラッグデリバリーレンズからの物質移動に関する検証も行っている.ここでは,水溶液含浸で得られたドラッグデリバリーレンズとは異なり,超臨界含浸法による作製されたドラッグデリバリーレンズでは,レンズ内部からの拡散が生じていることが示唆されている.このように,当初の研究計画を順調に遂行していると評価できる.また,薬物を含有するコンタクトレンズはハイドロゲルであるため,超臨界含浸プロセスでは,高圧下における超臨界二酸化炭素+水系の相平衡を把握することも重要となる.特に,超臨界含浸法では,ハイドロゲル内における水相への二酸化炭素の溶解度が,薬物の含浸量ならびに放出挙動に大きく影響を及ぼすことが考えられる.そこで,当初の研究計画に加えて,これまでに超臨界二酸化炭素+水系の相平衡理論モデルの構築にも着手している.特に,超臨界二酸化炭素相および水相における異種分子間相互作用と,相平衡計算精度について検討を行っている.このように,当初の計画であるドラッグデリバリーレンズの作製に加えて,その作製プロセスに不可欠となる相平衡モデルの構築にも着手,検討を行っている点において,当初の計画以上に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,超臨界含浸法におけるドラッグデリバリーレンズの作製においては,超臨界二酸化炭素に対する薬物の溶解度とレンズ中の薬物含有量との間に相関性があることが確認されている.さらに,作製したドラッグデリバリーレンズについて,薬物放出挙動を実験的ならびに理論的に把握している.今後は,本研究課題の目標を達成する上で,以下の項目を念頭に研究を遂行していく.(1)超臨界二酸化炭素+水二相系における薬物の溶解度ならびに分配係数に関する理論モデルの構築.これまでの成果により,ドラッグデリバリーレンズを作製する上で,超臨界二酸化炭素系の相平衡,溶解度といった基礎物性を把握することが重要である.そこで,超臨界二酸化炭素+水二相系における薬物の溶解度ならびに分配係数の推算モデルを構築する上で,異種分子間相互作用ならびに溶液構造に着目した理論的アプローチを遂行する.(2)ハイドロゲルにおける親水部,疎水部の割合と薬物放出挙動との関連性の把握.現在までに使用しているコンタクトレンズは市販のものであり,その含水率は把握できているが,ハイドロゲルの成分組成は未知である.そこで,本研究グループにて,親水部,疎水部の割合を変えたハイドロゲルを合成し,超臨界含浸法における温度,圧力や薬物の種類を変えたドラッグデリバリーレンズの作製を行い,ハイドロゲルにおける親水部,疎水部の割合と薬物放出挙動との関連性の把握を把握する.
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