研究課題
若手研究(A)
本研究では分子進化工学的手法および出芽酵母のシグナル伝達系を利用することで、GPCR本来の機能を保持しかつ安定性と発現量を高めた改変体を創出するシステムの構築を目的とする。そして本質的に調製が困難であるGPCRについて、構造解析および相互作用解析に利用できる安定な受容体蛋白質の創成を目指す。本年度はまず哺乳類由来GPCRとカップリングし、改変体のスクリーニングに利用可能な新規酵母株の作製を試みた。このために汎用の酵母株に、標的とする受容体によるシグナルが、酵母のシグナル伝達系を介し最終的に選択培地上でのコロニーの成長として現れるように以下の改変を導入する。(1)性フェロモン受容体STE2遺伝子の破壊。(2)細胞周期停止に関わるFAR1遺伝子の破壊。(3)FUS1プロモーター下流へのHIS3遺伝子の導入。(4)酵母の三量体G蛋白質Gpa1のC末端をヒトのGαに置換したキメラ遺伝子の導入。(5)液胞プロテアーゼPEP4遺伝子の破壊。現在までのところ(1)~(3)の遺伝子組換え酵母株の作製を終了した。また本年度に、Gpa1のC末端5残基をそれぞれGs、Gq、Gi/oに置換した酵母株3種を海外の研究グループより入手した。コントロールとなる受容体(ヒト由来ヒスタミンH1受容体、Gqとカップリング)およびヒト由来GPCR_A(Gi/oとカップリング)を用いて、酵母株を用いて受容体を発現させ、アゴニスト濃度依存的な受容体カップリングを確認した。また新規ターゲットであるGPCR_Aについて、出芽酵母を用いた安定化とPichia酵母を用いた大量調製系の確立に成功した。1回の精製でおよそ0.5mgの受容体の精製に成功し、安定性の高い精製蛋白質を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、平成25年度~26年度にかけて新規酵母株の作製を行う計画である。本年度において、1で述べた(1)~(5)までの5つの遺伝子破壊および遺伝子置換のうち、(1)~(3)に関してすでに完了し、また(4)についてはキメラ遺伝子の発現ベクターを構築した。(5)についても遺伝子破壊のためのベクターを構築し、現在導入を行っている。また海外のグループより、哺乳類GPCRとカップリングする3種類の酵母株を入手することで、独自の酵母株の作製と並行して、モデルGPCRを用いた評価系の構築を行うことができるようになった。また酵母を用いたGPCRの大量調製系に関しても、発現・精製が困難であった新規ターゲットGPCR_Aについて、出芽酵母を用いた安定化とPichia酵母を用いた大量調製系の確立に成功しており、1回の精製でおよそ0.5mgの受容体の精製に成功し、安定性が高く結晶構造解析に供する精製蛋白質を得ることができている。よって本研究は、概ね順調に進展していると言える。
まずは独自の酵母株の作製を継続する。また海外のグループより入手した酵母株を用い、コントロールとなる他のGPCRを組み合わせることで、本研究で利用するスクリーニング系の構築を並行して行っていく。コントロール受容体にランダム変異導入を行い、この系を用いてスクリーニングすることで、より安定な受容体の取得、および機能変換した受容体の取得(例えばGiとカップリングする受容体をGsとカップリングするように変換したり、アンタゴニストで活性化するような受容体に変換するなど)をおこなうことで、GPCRの機能の本質を明らかにしていく。また本研究においては、受容体蛋白質の大量調製系の確立も重要なテーマの一つであることから、酵母(サッカロマイセス、Pichia酵母)のベクター、培養条件、精製条件などの最適化も進めていく。
本研究において購入した超遠心機やリアルタイムPCR装置を当初計画よりも安価に購入することができたこと、また実験の工夫で試薬消耗品費を節約することができたことが理由として挙げられる。研究をより加速させるための実験機器の導入、もしくは試薬・器具の購入に当てる予定である。
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