研究課題/領域番号 |
25709090
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野村 政宏 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10466857)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 熱電変換 / フォノニック結晶 / 環境発電 |
研究実績の概要 |
低環境負荷なシリコンを用いた熱電変換材料の高性能化を目的とし、ナノサイエンスに立脚したアプローチで取り組んでいる。高性能化の鍵は、電気伝導率を損なわずに、熱伝導率を低下させることであり、熱伝導を担う格子振動の量子であるフォノンの輸送を制御することが目的となる。 当該年度は、単結晶シリコンに300 nm程度の周期をもつフォノニック結晶ナノ構造を形成し、フォノンおよび熱伝導特性について室温および4 Kにおける測定を行った。様々な結晶構造や構造パラメータのフォノニック結晶を作製し、系統的な熱伝導率の評価実験を行うことで、従来のマクロな系で支配的な拡散過程の物理とは全く異なる、ナノ構造に特有の弾道的なフォノン伝導を観測することができた。特に、現在主流のナノワイヤー構造に比べて、高い熱伝導率低減効果があることを示したことは、学術的価値の高い知見となっており論文として出版された。 また、熱電変換デバイスの作製に向けて、安価で大量生産が可能な多結晶シリコン材料についても研究を開始した。本研究の一部は、熱電変換デバイスの研究を行っているドイツのフライブルク大学のPaul教授との共同研究として進めている。n型およびp型多結晶シリコンにフォノニック結晶ナノ構造を形成し、熱伝導特性のみならず電気伝導特性を行った結果、ナノ加工によって3倍程度の性能向上を実現した。この結果から、本研究のアプローチが確実にデバイス性能を向上させるとの確証が得られたため、来年度はデバイス作製を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、シリコン熱電変換デバイスの開発を目的としており、当該年度では、熱伝導率測定の高速化、電気伝導率測定法の確立と実施により、ナノ加工によってどの程度熱電変換性能が向上可能かを定量的に評価することができた。本研究で提案するナノ加工によって、シリコンの熱電変換能が、ファーストトライで3倍以上向上することを実証した。この結果は、最終年度のデバイス作製に向けて取り組む価値を保障するものであり、本研究が順調に進んでいると評価した。 また、ナノ構造におけるフォノンおよび熱伝導の理解という基礎物理研究においても、ナノワイヤーとフォノニック結晶中での違いや、スケールの異なるフォノン散乱機構を導入することで効果的な熱伝導率制御を可能にするマルチスケール構造を提案した上で、その有効性を実証するなど、新しい知見や提案を生み出せたことも評価できると考え、本研究は順調に成果を出していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、引き続き半導体ナノ構造による熱伝導制御を進めるとともに、熱電変換材料にとって重要な電気的性質に対する知見を引き継ぎ、熱電変換性能の定量的評価を行う。半導体ナノ加工によって、未加工の材料に比べてどの程度の性能向上が可能になるかを定量的に評価し、応用可能性を示すことを目指す。 本年度は、昨年度開始した多結晶シリコン材料を中心にフォノニック結晶ナノ構造を作製し、人工結晶構造による熱伝導制御が可能なことを世界に先駆けて示すことを第一の目標とする。そして、熱電変換応用に関しては、スケールの異なるフォノン散乱メカニズムを導入することで、熱フォノンのマルチスケール性に対応した、高い熱伝導率制御効果を発揮する独特の構造の作製を行う。具体的には、n型およびp型の多結晶シリコン薄膜に対して、電子線描画装置で周期300 nm程度の様々な構造パラメータを有するフォノニック結晶構造を形成し、電気伝導率および熱伝導率測定を行う。最も高い熱電変換能を与えるよう、ドープ濃度や結晶構造を最適化する。これらにより、未加工材料よりも飛躍的に熱電変換能を向上させたナノ構造シリコン熱電変換材料を形成し、デバイス化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新しく博士研究員を雇用した関係で、物品費から人件費に研究費をまわした関係で、使用額に若干のずれが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度もその博士研究員の雇用を継続するため、その人件費に充てる。
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