バルクでは非常に低い熱電変換能にとどまるシリコンをフォノニクスの学理と半導体ナノ加工により高効率熱電変換材料に昇華させ、実用的なバルク性能を有するSi熱電変換デバイスの実現を目指して研究を行った。 本研究では、フォノニック結晶ナノ構造と呼ばれる人工周期構造を100 nm程度の微細周期で作製し、ナノスケールフォノン伝導の物理探求を進め、熱伝導率を低減することで熱電変換能の増強を実証し、性能向上を実現した。 基礎物理では、世界で初めてフォノンの波動性を用いた熱伝導制御に成功し、学会で大きな注目を浴びた。これは、従来の熱伝導制御がフォノンの粒子的描像で記述される世界から、波動性を活用する領域に踏み出す第一歩となり、伝熱工学や固体物理学におけるマイルストーン的成果のひとつであるといえる。 一方、熱電変換材料開発では、周期300 nmの周期円孔配列を有するフォノニック結晶の形成により、多結晶シリコン薄膜の熱電変換性能が3倍に向上することを定量的に示し、初めて性能指数値を報告した。これにより、微細構造導入がどの程度の性能向上を可能にするかの手がかりを与えることができた。これは、ドイツフライブルク大学との共同研究により得られた成果であり、日経産業新聞でも取り上げられた。 以上をまとめると、ナノスケールのフォノン輸送において重要な成果を上げつつ、低環境負 荷なシリコン熱電変換材料の高性能化を行った。来るべきスマート社会化の構築に貢献するエネルギー自立型マイクロセンサーに利用可能なエネルギーハーベスターの候補の一つにナノ加工シリコンがなりえることを示したといえる。
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