研究課題/領域番号 |
25710005
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
繁冨 英治 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (00631061)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ペリシナプスグリア / カルシウム / カルシウム感受性タンパク / シナプス伝達 / アデノ随伴ウイルス / Lck-GCaMP3 / P2Y1受容体 / 一次体性感覚野 |
研究概要 |
平成25年度はペリシナプスグリア(シナプス周囲を取り囲むアストロサイト)のCa2+動態観察の実験系の立ち上げに注力した。その成果は以下の4点にまとめられる。1、Lck-GCaMP3及びcytosolic-GCaMP3発現アデノ随伴ウイルス(AAV)を作成した。2、Lck-GCaMP3発現AAVを用いて、一次体性感覚野後肢領域アストロサイトにLck-GCaMP3を選択的に発現させる実験系を立ち上げた。急性脳スライス標本を用いた解析により、ペリシナプスグリアにおいて多くのCa2+応答が観察された。これらは、Ca2+流入及び細胞内Ca2+ストアからのCa2+放出の両方に依存した応答であった。3、Lck-GCaMP3で観察される細胞膜直下のシグナルと、細胞質で起こるシグナルを比較するためにアストロサイト選択的にcytosolic-GCaMP3を発現するマウスを作出した。これを達成するため、Ai38(Rosa26-loxP-STOP-loxP-GCaMP3)マウスとGlast-CreERT2マウスを交配させ得られた動物にタモキシフェンを投与した。免疫組織化学法によりGCaMP3はアストロサイト特異的に発現していることを確認した。4、in vivoでアストロサイト選択的かつ慢性的なCa2+イメージングを可能とする系を構築した。その結果in vivoでのペリシナプスグリアのCa2+動態の観察に成功した。In vivo覚醒下においても多くのCa2+応答がペリシナプスグリアで観察された。 アストロサイトのCa2+動態を制御する分子の1つP2Y1受容体がある。このP2Y1受容体発現をアストロサイト特異的に制御するマウスを作出・解析したところアストロサイトのCa2+応答が増強されまたシナプス伝達も増強されることを見出した。詳細なメカニズムの解析は平成26年度に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度は、ペリシナプスグリアのCa2+動態の解析及びその分子メカニズムを明らかとする予定であった。In situおよびin vivoによる解析を複数の手法(AAVによる遺伝子導入、遺伝子改変動物)によって行う実験系を立ち上げた。その結果、in situ及びin vivoの両方でペリシナプスグリアのCa2+動態を観察することにおおむね成功した。しかし、これらの複数の実験系を同時並行に立ち上げることに多くの時間が取られたため、Ca2+動態の分子メカニズムの解析は期待した以上に進めることができなかった。26年度は、このCa2+動態の分子メカニズムの解析に注力したいと考える。 26年度に予定していたペリシナプスグリアのCa2+操作の実験はわずかではあるが伸展した。ペリシナプスグリアのCa2+操作する方法の1つとして、アストロサイト特異的P2Y1受容体過剰発現マウスの解析を行った。P2Y1受容体刺激によりCa2+濃度上昇が起こる。このP2Y1受容体をアストロサイト特異的に過剰発現させたときに、アストロサイト及びニューロンで起こる影響を解析した。その結果、海馬歯状回において、アストロサイトの自発Ca2+応答が上昇しおり、興奮性シナプス伝達が亢進していた。ニューロンの細胞膜特性に大きな変化はなかったことから、P2Y1受容体発現上昇によるCa2+興奮性の亢進がシナプス伝達を制御する可能性が推察された。26年度に、このメカニズムについて詳細に解析を進める予定である。 以上より、当初の予定より少し遅れ気味ではあるが、実験成果は少しずつ出始めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
25年度にin situおよびin vivoにおけるペリシナプスグリアのCa2+動態の立ち上げに多くの時間がかかった。特に、遺伝子改変動物を用いた慢性的なin vivo Ca2+イメージングを立ち上げたことにより、多くの時間が割かれた。慢性的なin vivo Ca2+イメージングには準備から観察の間に、様々な薬物投与等の処置をしなければならないため実験データを取得する以外に多くの時間が割かれる。実験データを取得することに集中するために、昨年度より技術補助員を採用し、データ取得に直接的に関わらない薬物投与などの一部の作業を負担していただいている。これにより、大幅な効率化が図れた。26年度も引き続き同様の支援体制を持続させ、in vivo Ca2+イメージングも推進させる。In situ Ca2+イメージングのセットアップにおいては、25年度は光源が不安定になったため、代替品の検討及びその最適化に多くの時間が割かれた。しかし、26年度からは安定して実験が進められる見通しが立った。以上より、実験データ取得に集中できる体制が整ったので、26年度は25年度の遅れが取り戻せると考える。ペリシナプスグリアのCa2+制御及び構造変化の観察には、新たにベクター構築が必要となるが、受託サービスなども積極的に活用することにより、実験成果が効果的に出せるようにする。 26年度から計画しているアストロサイト特異的代謝調節型グルタミン酸受容体5型欠損マウスは交配を開始しており、これも26年度7月頃から使用可能となる予定である。このマウスの管理についても技術補佐員と緊密な連携を取り、効率的に実験を進め結果が得られる体制を整えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度に計画していた「ペリシナプスグリアCa2+シグナルの分子メカニズム」の解析が、期待した以上に進まなかったため、当該実験に必要な物品費を使用せずに26年度に繰り越した。 上述の25年度予定であった「ペリシナプスグリアCa2+シグナルの分子メカニズム」に関する実験を早急に進めるために、必要な物品を早々に購入する予定である。
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