昨年度から引き続きP2Y1受容体とmGluR5受容体という2つのGPCRの発現を制御してペリシナプスグリアのCa2+操作を試みた。平成27年度は、ペリシナプスグリアのCa2+操作の結果起こるアストロサイト機能変化をCa2+感受性蛍光タンパク質を用いて詳細に解析し、更に神経活動に及ぼす影響を解析した。その結果は、以下の6点に要約される。アストロサイト特異的P2Y1受容体発現増加により1、細胞体の近傍から始まり細胞全体に広がり、隣接するアストサイトに広がるCa2+ウェーブ様の自発Ca2+活動が出現した。2、自発Ca2+活動は内在性リガンドによるP2Y1受容体活性化を介していた。3、電気生理学実験により、P2Y1受容体活性化依存的な興奮性シナプス伝達の増加を見出した。4、神経活動をCa2+感受性タンパク質を用いて可視化する実験系を確立した。5、アストロサイトP2Y1受容体過剰発現マウスは、ピロカルピン誘発てんかん重積を有意に誘発しやすかった。6.mGluR5受容体をアストロサイト特異的に欠損する動物を作成して、ペリシナプスグリアのCa2+操作を試みた。mGluR5は成熟動物のアストロサイトにはほとんど発現していないが、病態時において発現上昇する。病態モデルにおいてはアストロサイトのmGluR5欠損を確認した。 P2Y1受容体を用いたペリシナプスグリアのCa2+操作により、広範かつ巨大なCa2+シグナルをアストロサイトに引き起こし、これが神経細胞の興奮性を上昇させ、結果的に、てんかん発作のような神経過興奮を引き起こしやすい状態を生み出す可能性が示された。一方、mGluR5によるペリシナプスグリアのCa2+操作については、発達期における遺伝子操作のための実験条件を検討した。
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