前年までの研究から、スプライシング阻害剤であるスプライソスタチンA (SSA)で細胞を処理すると、RNAポリメラーゼIIのC末端部位のSer2のリン酸化レベルが低下することが明らかとなっていた。本年度は、この原因を探索するために研究を行った。クロマチン免疫沈降実験によりRNAポリメラーゼIIの挙動を確認したところ、SSA処理細胞中では転写が早期に終結してしまい、DNAから離れたRNAポリメラーゼIIが多く観察された。さらに、そのようなRNAポリメラーゼIIは、次の転写サイクルのために核質で脱リン酸化されており、転写の早期終結がRNAポリメラーゼIIの脱リン酸化に関与していることが明らかとなった。さらに、転写を行っているRNAポリメラーゼIIのリン酸化レベルも低下しており、これらの2つの機構によりRNAポリメラーゼIIのリン酸化レベルが低下していると考えられる。このようなRNAポリメラーゼIIの脱リン酸化は、転写阻害剤や翻訳阻害剤の処理では観察されなかったため、遺伝子発現機構全体の阻害ではなく、スプライシング異常に特有の現象であると考えられる。一方、アンチセンスオリゴを用いたスプライシングの阻害や、他のスプライシング阻害剤によるスプライシングの阻害によってもRNAポリメラーゼIIの脱リン酸化が観察されたことも、スプライシング異常がRNAポリメラーゼIIの脱リン酸化を引き起こすことを支持するものである。次年度は、スプライシング阻害が早期転写終結を引き起こす詳細な分子メカニズムの解析を行う予定である。
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