研究実績の概要 |
1. 分裂酵母における分裂率と死亡率の関係 前年度までの実験で、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeでは、定常環境下において、分裂率と死亡率が世代によらず一定であり、細胞齢に依存した加齢(Aging)が起きないことを明らかにしている。この分裂率と死亡率には線型関係があることも前年度までに示していたが、この定常環境下で起こる突然死の原因を探るため、細胞内に生じるタンパク質凝集体の挙動を1細胞レベルで計測する実験を行った。その結果、従来広く受け入れられていた結果と反し、タンパク質凝集体の量や保持時間と、細胞の世代時間、死亡率のあいだに相関がないことを明らかにした。これにより、タンパク質凝集体の量がある閾値を超えることで、細胞に負荷がかかり死亡するという描像は、少なくとも分裂酵母では成り立たないことが明らかになった。
2. マウス白血球系ガン細胞L1210の1細胞計測 マウス白血球系ガン細胞L1210を対象とした長期1細胞計測を実現する、マイクロデバイスを構築した。これは、上記1で開発した分裂酵母用のデバイスを改変するとともに、動物細胞特有のCO2濃度を制御した顕微鏡システムを組み合わせることで実現した。このデバイスを利用した1細胞計測によって、L1210細胞の定常環境下での世代時間の分布や世代間相関を計測し、これまで調べた大腸菌や分裂酵母と異なり、世代時間の世代間相関が強い、世代時間にエピジェネティックな正の相関があることが明らかになった。また、世代時間の相関次元の解析をおこない、世代時間のゆらぎが実は決定論的なダイナミクスに駆動されているという最近の報告(Sandler, et al., Nature, 2015)と相反する結果を得ており、動物細胞の世代時間の変動を理解する上で重要な実験結果を得ることに成功した。
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