研究課題/領域番号 |
25711010
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤井 高志 独立行政法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 基礎科学特別研究員 (10582611)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 低温電子顕微鏡法 / 自然免疫 / アクチン |
研究実績の概要 |
免疫システムには外敵から身を守るだけでなく、細胞の健康状態を常時監視し”傷ついた”細胞を検出し除去するメカニズムがある。樹状細胞膜上にあるDNGR-1受容体が細胞骨格を構成するアクチン繊維をリガンドとして認識し、”傷ついた”細胞を検出している。低温電顕単粒子解析法によりアクチン繊維・DNGR-1複合体の高分解能構造解析を行い、その原子レベルでの相互作用様式を調べた。 まず、ヒトベータアクチンを重合・繊維化し、発現系より精製したマウスDNGR-1を混合し、複合体を作成した。低音電子顕微鏡法により、高分解能データを収集するために、氷包埋条件を幅広く検討し、複合体形成率および薄い氷を作成できる条件を見つけた。DNGR-1は溶液中で2量体を形成しており、アクチン繊維と結合した時、もう片方のDNGR-1が他のアクチン繊維と結合しバンドル化することが懸念されたが、繊維は単分散しており、バンドル状の凝集体を形成していないことを確認した。この単分散した繊維を低温電子顕微鏡法で観察を行い、大量画像データ取得を行った。3次元立体構造解析により、7.7オングストローム分解能で繊維構造の密度マップを得た。アクチン繊維は2本の素繊維がリボンのように絡み合った構造をしているが、DNGR-1はその2本の素繊維の間にはまり込むように結合していた。この事実はDNGR-1がアクチン繊維にのみ結合しアクチン単量体に結合しないというこれまでの知見を構造生物学的に証明している。また、変異体解析のデータと組み合わせることにより、DNGR-1がアクチン繊維をどのように認識しているかの3次元マッピングをおこなうことが可能になり、傷ついた細胞を認識する機構の一端が明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度の達成度としては90%であると考えている。アルファヘリックスやベータシートなどの2次構造が解像できる分解能で構造解析が完了し、遺伝学・生化学のデータを組み合わせることにより、論文をImmunity 誌上に発表した(Immunity in press)。また、さらなる高分解能化をおこなう上でのDNGR-1とアクチン繊維のキャラクタリゼーションを完了することができている。キャラクタリゼーションには溶液の塩濃度、pHなどの条件だしから、氷の厚さの微妙な調節なども含まれる。膨大な画像データからの繊維像の切り出しなどを自動化するツールなどを作製したことにより、省力化を行うことができるようになっており、今後原子分解能での解析がスムーズに進展することが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
アミノ酸側鎖が可視化可能な3オングストロームより良い分解能での構造解析を目指す。氷包埋技術の高度化や電子顕微鏡の自動化・画像解析技術の高度化などにより、今後はデータ収集・解析をスムーズに行う事ができる。低温電子顕微鏡法では高分解能化するために大量のデータを取得し、それを画像解析技術により分類・整列を行い平均化することにより信号対雑音比を上げる。これにより、照射電子線量の制限のために高いノイズレベルの生画像から、高分解能情報を抽出することができる。大量データ収集・解析を可能にするために、データ取得の自動化や解析の完全自動化など自動化技術の改良にも取り組む。これらの基盤要素技術の開発は本研究のみに役立つだけではなく、幅広く低温電子顕微鏡法の改良・革新に寄与する。また、新型の電子直接検出型CMOSディテクターの導入により、分解能を大きく減衰させていた電顕像の“ぼけ”と“ぶれ”を解消できる目処がたった。これにより、超高分解能構造解析が行えると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アクチン繊維・DNGR-1複合体の高分解能構造の論文発表を急いだため、電子線トモグラフィーによるアクチン繊維による樹状細胞形態変化解析の研究計画を後期にずらしている。その結果、それに用いる研究費を後ろ倒ししており、次年度使用額が生じている。
|
次年度使用額の使用計画 |
繊維構造の高分解能化についての研究・論文発表自体は極めて順調に進行しており、今後、他に計画していた電子線トモグラフィー法による細胞形態観察も行う。それにともない、必要な実験機器・研究試薬等を購入する予定である。
|