これまでに我々は、ショウジョウバエ翅において、Spleの非対称局在は非典型的カドヘリンDachsous(Ds)と非典型的ミオシンDachsに依存すること、さらに、このSpleの非対称局在は蛹期のみならず幼虫期においても観察されることを見出している。Spleの局在化機構およびDsの発現パターンに関する研究を実施し、以下の結果を得た。 (1)翅成虫原基におけるSpleの非対称局在は、コアグループ遺伝子の欠失またはノックダウンによる影響を受けなかった。翅成虫原基におけるSpleの非対称局在は、コアグループに依存しないことが明らかとなった。 (2)Sple のN末端領域(Ds結合領域)にEGFPを融合させた分子(EGFP-Sple-N)の細胞内局在を解析した。EGFP-Sple-Nは、幼虫期の翅成虫原基では細胞膜に局在するのに対し、蛹期の翅では主に細胞質に局在した。幼虫期と蛹期において、Spleの局在制御機構が異なる可能性が示唆された。 (3)Sple のN末端領域のアミノ酸配列解析から、Spleと物理的に相互作用することが予想される分子群をピックアップし、これらの分子とSpleとの遺伝学的相互作用を解析した。 (4)我々は、中胸背板におけるSple過剰発現により、中胸背板の後部領域においてのみPCP(背毛の向き)の逆転が起きることを見出している。翅成虫原基の将来中胸背板となる領域におけるDs発現パターンを解析したところ、前部と後部の境界において最も高い発現が観察された。これは、上述の実験結果から導き出された我々の仮説を支持するものであった。
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