研究課題/領域番号 |
25711016
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
高鳥 直士 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (70404960)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 発生生物学 / 細胞極性 / 胚葉運命 / PI3K / 核 |
研究概要 |
胚葉運命の分離は、胚の中に多様な細胞が作られる過程に重要である。中胚葉細胞と内胚葉細胞は、多くの動物で中内胚葉細胞から作られることが近年の細胞系譜の解析からわかってきた。しかし、中胚葉運命と内胚葉運命を異なる細胞に分配する機構、すなわち、胚葉運命を分離する機構の細胞レベルでの詳細は不明である。 脊索動物のホヤ(Halocynthia roretzi)では、中内胚葉細胞内で核が将来中胚葉を作る側に移動して、Not転写因子をコードするmRNAを中胚葉側の細胞質に局在させ、その後Not mRNAが中胚葉細胞に非対称に分配されることが、胚葉運命の分離に重要であることを、先行研究で明らかにした。 本研究では、核の移動方向決定する機構を解析して、胚葉運命分離に必要な細胞極性を作り出す機構を受精直後の非対称性にまで遡って解析した。極性を作り出すために必要な因子を同定して、その因子を局在させる機構の概要を明らかにした。また、局在を維持するために、その因子自身の活性が重要であることも明らかにした。極性に従って核が異動する機構を解析して、核移動に必要な細胞骨格が非対称であることと、その非対称性がどのようにして制御されているかの一端とを明らかにした。Not mRNAの局在を制御する機構を解析するために、細胞質内でのRNA局在を今までより詳細に解析した上で、RNA結合因子の同定と機能解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、胚葉運命の分離に必要な細胞極性がどのように作られるのか理解する、というものであった。昨年度の研究によって得られた結果は、胚葉運命分離に至る因果関係を受精直後の非対称性にまで遡って理解すること可能にした。このような理解は、多くのモデル生物の研究で渇望されてきたが得られておらず、本研究の成果は、他に類を見ない画期的なものといって差し支えないと考える。 研究計画では、核移動方向の制御の因果関係を卵の段階まで遡ることは非常に難しいと考えていた。しかし、僅か1年で達成することができた。これには、4細胞期のPtdIns(3,4,5)P3の局在を見出したこと、4細胞期と16細胞期のPI3Kの局在と活性の間の関係に着目することができたことが幸運にも大きく作用した。計画段階で考慮していた、PI3K mRNAの局在については、存在しないことがわかった。母性PI3Kの局在が、最初の中・内胚葉極性を作り出すことがわかった。その上で、母性PI3Kの局在を制御する機構を明らかにした。これらに加えて胚性のPI3Kの局在には、母性のPI3Kの局所的な活性が重要であることがわかり、PI3Kの局在を制御する機構で長らく謎であった部分を解明することができた。これらの結果が得られたことで、受精後の非対称性の誕生から胚葉運命分離に至るまでの因果の連鎖を明らかにすることができた。このことは、これまでの胚葉運命分離機構の研究と比べて非常に優れており、望んでいた以上の成果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
核の移動には、微小管が重要であること、微小管の配向が非対称であること、さらにその日対称性を制御する因子を明らかにしたが、この因子以下の制御機構がわかっていない。核が中胚葉側に移動する過程での微小管の挙動を生体内で詳細に観察する方法を確立して、微小管の配向またはその働きがどのように制御されているのか明らかにする。微小管結合タンパク質の局在と挙動に注目した解析も行う。 Not mRNAは中胚葉側に移動する過程で核の中に存在している。そして、核が中胚葉側に到達する頃になって、細胞質に存在するようになる。この変化を制御する機構を解析する。まず、Not mRNAの局在の変化と核移動、細胞周期の関係をこれまで以上に細かい時間解像度で観察する。生体内での観察も視野に入れて解析する。Not mRNAの上流解析が進んだので、結果を応用して改変型のNot mRNAを核内で転写させ、Not mRNA上のシスエレメントを解析する。Not mRNAに結合するタンパク質のスクリーニングが進んだので、Not mRNA局在にどのように関わるか検証作業を進める。
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