研究実績の概要 |
ホヤ胚では,中内胚葉細胞の核が細胞の一方に移動して,Not遺伝子のmRNAを局在させ,そのmRNAが細胞分裂により一方の娘細胞に分配されることで中胚葉運命と内胚葉運命が分離されていることがわかっている.胚のどの部分が中胚葉になるか決めるのは核の移動なので核の移動方向を決める機構を理解するために,核の移動方向を制御する因子をスクリーニングして,中胚葉側に局在するPhosphatidylinositol 3-kinase(PI3Kα)を含む複数の因子を得た.PI3Kαは細胞膜リン脂質をリン酸化するキナーゼである.PI3Kの産物であるPhosphatidylinositol (3,4,5) –triphosphate (PIP3)も将来の中胚葉側に局在していた.PI3K, PTEN(PIP3分解酵素), PIP2(PI3Kの基質), PIP3の局在と,PI3KとPTENの機能を解析した結果,16細胞期のPIP3の局在が核移動方向を直接決定することが示唆された.PIP3の局在は,PI3K局在に依存していた. 次にPI3Kを局在させる機構を調べた.母性PI3Kタンパク質は,未受精卵では細胞表層にほぼ均一に存在する(図2)が,受精後の卵細胞質再配置により,受精後僅か5分の間に,将来の内胚葉領域を除く領域へと局在が変化した.4細胞期に母性PI3Kが将来の中胚葉領域で活性化されることでPIP3が作られ,PIP3局在依存的に胚性のPI3Kタンパク質が中胚葉領域に局在した.(図2).これらの結果より,受精から運命分離に至る因果関係の枠組みが得られた(Takatori et al., Dev. Cell, 2015).
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