研究課題
若手研究(A)
本申請研究はシロイヌナズナ子葉をモデル材料として高CO2 の葉表皮細胞の気孔分化・形態形成に対する影響を定量的・統計的に検討することを目指しています.計画初年度である本年度はシロイヌナズナ子葉における広域顕微鏡画像の取得・解析のフレームワークの構築に取り組みました.申請時の計画通り,成熟した孔辺細胞特異的にGFP-ERを発現するエンハンサートラップラインE1627 の子葉に対する蛍光色素FM4-64 の生体染色および,多点共焦点撮影と画像解析による半自動繋ぎ合わせにより,葉身2 mmほどの子葉表皮組織全体における細胞輪郭と気孔分布の可視化を実現しました.これは染色条件および撮影・画像解析条件の最適化の検討によるものです.また,申請時より高CO2 により異形化する予備的結果を得ていましたが,本年度はこの形状変化を定量的かつ効果的に理解するための測度の検討を実施しました.まず,表皮細胞の形状を評価するための標準データとして,セルラーゼ処理によって異形化した表皮細胞(葉身1 mm以下)の共焦点画像を撮影し,細胞面積および細胞伸長度などの測度とのクラスタリングを実施したところ,稠密度が表皮細胞の異形化(特に突出部形成)を効率的に定量表現できる尺度であることが示唆されました.また,セルラーゼ処理した表皮細胞をモデルとして,数理モデル解析の専門家である九州大学の三浦岳教授との協同により,葉表皮細胞の異方成長パターンを理解するための数理モデルについての検討も進めました.次年度以降,この方法論を駆使して高CO2処理による異形化の可能性を定量的に評価します.
1: 当初の計画以上に進展している
「研究実績の概要欄」に述べた通り,申請時の研究目標を達成することができました.これに加え,高CO2処理による表皮細胞の異形化を定量評価するための標準となる画像セットを構築する過程で,セルラーゼ処理によって葉表皮細胞が異形化することを見出しました.この実験系は申請当初は予期していなかった発見であり,新たな研究への発展が期待されます.さらに,葉表皮細胞の形態形成に関する数理モデルについては,申請時に計画していた界面方程式モデルに加えて,力学モデルについても検討を始めており良好な結果を得ている.特に,原子間力顕微鏡による予備的実験から力学モデルの結果と矛盾しない実際の細胞における結果を得ていることは注目すべきと考えており,次年度以降も注意深く測定を進める予定です.以上の状況を踏まえて,本申請研究は当初の計画以上の進展をみせていると言えます.
今後,これまでに確立した顕微鏡画像解析フレームワークを活用して異なる二酸化炭素濃度で栽培したシロイヌナズナ子葉表皮の細胞輪郭画像を取得します.これらに基づいて細胞数・細胞形状・気孔数・気孔分布に対する高CO2条件の影響を定量的に評価します.申請時の計画通り,上記の次年度以降の目標を達成するため,昨年度より継続して雇用する技術補佐員に加えて,短時間勤務の博士研究員を新たに雇用します.これにより植物栽培から画像解析に至る実験がよりスピード感を持って進められると期待されます.また,葉表皮細胞の形状に関して共同研究者による数理モデル解析と申請者による形態計測・画像クラスタリング解析の結果を比較検討することで表皮細胞形状に寄与する要因を探索します.必要に応じて,細胞壁成分の化学分析や原子間力顕微鏡による物性測定も行う体制を整えています.一連の今後の解析により,高CO2環境に曝された植物における気孔の発生と機能に対する理解が深まることが期待されます.
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
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http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/7_entry11/
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