研究課題/領域番号 |
25711020
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 良樹 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 助教 (30508817)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 生殖系列 / 始原生殖細胞 / ミトコンドリア / 解糖系 / メタボロミクス |
研究実績の概要 |
個体がもつミトコンドリアは卵を介して母性的に伝達される。正常なミトコンドリアをもつ生殖細胞が選別される仕組みは、次世代の個体が正常なミトコンドリアを受け継ぐ上で重要であるが、そのメカニズムは不明である。本研究では、ショウジョウバエの胚発生過程における始原生殖細胞(以下、PGC)の細胞死誘導が正常なミトコンドリアをもつ生殖細胞を選別するうえで重要な役割を担っているという可能性に着目して研究を行っている。特にPGCにおける解糖系の亢進が、PGCの細胞死誘導を行うことでこの仕組みにおいて中心的な役割を果たしているという可能性に着目している。これまでに1:PGCでは体細胞に比べて解糖系中間代謝物質が多く含まれていること、2:PGCにおいては解糖系代謝酵素遺伝子およびタンパク質の発現が高いこと、3:解糖系遺伝子の働きはPGCの細胞死誘導に必要であること、4:PGCにおいてはマイトファジー因子およびNecrosis誘導因子の発現が高いことが明らかとなっている。これらの結果をうけて、平成28年度においては以下の解析を試みた。 1:平成27年度において開発したミトコンドリアの定量的画像解析法を改良することでより正確な定量ができる方法の開発を試みた。 2:これまで解糖系代謝酵素にたいする機能阻害の系を用いることで表現型の解析を行ってきた。これに加えて過剰発現の実験型を用いることでその影響を解析することを試みた。特に胚発生後期以降、PGCにおいて解糖系の活性が減少する時期において過剰発現を行った場合、どのような表現型を示すのかに着目して解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度においてはPGCにおけるミトコンドリアの定量的画像解析法の開発の改良に着手した。平成27年までに個々のPGCにおいてミトコンドリア量を解析するためにRegion-Grwoing法を用いることを見出した。この方法では各PGCの中心にシードとよばれる点をおく。PGCのラベルが示す境界線と、シードを中心とした領域の交わる領域を細胞の境目として一つ一つのPGCを分離する。この方法の難点はシードを人為的に “球”としておくために、細胞がもつ微妙な向きの違いや中心のずれが境界線に反映されにくい点にある。そこでこれを解決するためにシード自体も画像を元に設定することにした。このためにPGCの核をラベルし、各核の領域をシードとした。核をラベルする方法としてはできるだけ核が均一にラベルできる方法の選定を行い、ヒストンH3に対する免疫化学染色を選定した。これより得られるシードとして用いることで細胞の微妙な傾き等も含んだ個々のPGC領域の抽出に成功した。この方法は本研究以外の研究においても有用な方法であると考え、他のオルガネラに対する観察法とあわせて、現在論文として発表する準備を行っている。 2点目として解糖系代謝酵素遺伝子の強制発現による解析があげられる。このために複数の解糖系代謝酵素遺伝子について強制発現をするためのトランスジェニック系統を作出した(HexA、Pfk、Gapdh1など)。これらの遺伝子をPGCにおいて強制発現した結果、胚発生過程においてPGC数の顕著な減少は起きなかった。以上の結果より、解糖系はPGCの細胞死誘導機構において必要であるが充分ではない、あるいは解糖系はPGCの選択のプロセスに関与しているという可能性が示唆された。今後はこれらの強制発現系においてマイトファジー等のPGC選択に関与する可能性がある遺伝子群の発現が変化するかどうか検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように取得画像よりPGC中のミトコンドリアを定量的に解析する方法を得た。平成29年度においてはまずこの方法を論文として発表することを行う。本研究により開発された方法はラベル細胞中に含まれる様々なオルガネラの定量的観察法に応用が可能である。この点においてもこの手法を論文として発表することは有益であると考える。この方法がより一般的に有用であることを示すためにはミトコンドリア以外のオルガネラについてもこの方法を用いて解析が可能であることを示す必要があり、この解析については現在進行中である。ついでこの解析方法を用いて胚発生過程におけるPGC中のミトコンドリアの定量的解析を行う。この際、野生型において各発生ステージ、あるいは生殖巣の内外など、さまざまなPGCに対する画像解析を行うことで、まず野生型のPGCにおけるミトコンドリアの挙動を追う。さらに解糖系遺伝子阻害胚、あるいはマイトファジー遺伝子阻害胚において同様に画像解析を行うことでこれら因子がPGCにおけるミトコンドリアの増減に関与するかどうかについて明らかにする。 解糖系代謝酵素遺伝子の強制発現系を用いた解析も行う。平成28年度において、解糖系代謝酵素遺伝子の強制発現はPGCの細胞死自体を誘導することはないことが明らかとなった。これより解糖系はPGCの選別を制御することによりPGCの選択的細胞死誘導のプロセスを制御するという可能性が示唆された。そこでPGCの選択に関与することが示唆されているマイトファジー因子などが、解糖系代謝酵素遺伝子の強制発現および機能阻害によって、解糖系代謝酵素遺伝子の増減に依存して変化するかどうか検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究により開発した画像解析法の改良にともない当該サンプルを改良した方法で再解析する必要が生じ、研究期間の延長の必要性が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において速やかに上記解析を行うとともに研究成果を発表するための論文投稿費等に使用する。
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