正常なミトコンドリアをもつ生殖細胞が選別される仕組みは、次世代の個体が正常なミトコンドリアを受け継ぐ上で重要である。本研究では、ショウジョウバエの胚発生過程における始原生殖細胞(以下、PGC)の細胞死誘導が正常なミトコンドリアをもつ生殖細胞を選別するうえで重要な役割を担っているという可能性に着目して研究を行っている。特にPGCにおける解糖系の亢進が、PGCの細胞死誘導を行うことでこの仕組みにおいて中心的な役割を果たしているという可能性に着目している。これまでに1:PGCでは体細胞に比べて解糖系中間代謝物質が多く含まれていること、2:PGCにおいては解糖系代謝酵素遺伝子の発現が高いこと、3:解糖系遺伝子の働きはPGCの細胞死誘導に必要であること、4:PGCにおいてはマイトファジー因子等の発現が高いことが明らかとなっている。これより、平成29年度においては以下の解析を試みた。 1:上記の解析を遂行するにあたっては個々のPGCに含まれるミトコンドリアを生物画像より定量的に観察する手法が必須である。平成28年度までに開発したミトコンドリアの定量的画像解析法をさらに改良することで個々のPGCに含有されるミトコンドリアを測定することに成功した。この結果、含有されるミトコンドリア量はPGCごとに異なること、生殖巣に取り込まれて生殖細胞に分化するPGCは、それ以外のPGCに比べて多くのミトコンドリアを含むことを見出した。現在、本結果について論文準備中である。 2:平成28年度において作出した解糖系代謝酵素遺伝子の過剰発現系統をより詳細に観察した結果、このような個体で生殖幹細胞の分化が遅れることを示唆する結果を得た。本結果がミトコンドリアの品質管理の仕組みの異常により生じたかは不明であるが、本研究の重要な柱である生殖系列における解糖系の役割の解明の上では重要な萌芽的な成果と考える。
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