研究課題/領域番号 |
25711025
|
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
沓掛 展之 総合研究大学院大学, その他の研究科, 講師 (20435647)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 行動生態学 / 哺乳類 / 適応度 / 生活史 / 社会 |
研究実績の概要 |
【成果1】チンパンジーにおける攻撃性とその至近要因を研究した(Kutsukake 2015; Kutsukake et al. submitted)。また、野生群で見られるオス順位の変遷を年齢によって予測することに成功し(Hasegawa and Kutsukake 2015)、動物の社会関係を理解する上で、生活史を考慮する事の重要性を示した。とくに、連合形成という複雑な社会行動が、オス間の順位闘争に効果的であることを定量的に示す事ができた。ベイズ統計を用いた本研究の手法は、他のデータにも適用可能である事が分かったので、今後、共同研究によって研究を拡大させていく。 【成果2】血縁淘汰の前提を精査し、生活史が利他行動の分布に与える影響・重要性を考察した。利他行動の分布に関して、生活史の視点から導かれる三つの予測を哺乳類で検証し、いくつかの支持する結果を得ることができた。この結果に加えて、今後、検証すべき新しい疑問を多数見つけることができた。この成果を踏まえて、文献調査によって哺乳類の生活史パターンに関するデータを収集し、定量的な分類によって予測検証を行っていく。 【成果3】哺乳類と鳥類の生活史形質の比較を開始した。まず、分析に用いる哺乳類の基礎生態、生活史に関するデータベースの作成を行った。この作業により、今後、系統種間比較法を用いて、系統による制約、形質間の相関進化をみていく基盤ができた。また、形質シミュレーションを用いた系統種間比較法によって、独自の形質進化を遂げた哺乳類種にみられる方向性淘汰の存在、強さを検証した。 【成果4】アジアゾウの行動観察から、順位による行動の違いを分析した。その成果を論文にまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、目標としていた研究が順調に進行しており、成果発表、論文化も進んでいる。個体の闘争力と年齢に関するチンパンジーの研究は、寿命の長い動物を対象に個体の推移を定量的に扱った稀有な研究例であり、当初、想像していた以上に明確な結論を得ることができた。この論文がきっかけとなって、新しい共同研究が始まる可能性があり、順調な研究発展を見せていると考えている。 生活史と利他性の関係については未解明な点が多かったが、今年度の研究によって具体的な予測を整理することができた。今後、この予測に沿って実証研究を進めていきたい。生活史と社会性の関係を分析するのに多くのエフォートを費やしたため、個体群と社会性のつながりについては途上段階である。今後2年間、個体群に関する研究にエフォートを傾けていき、同時に進展させていきたい。 プロジェクト全体として、大学院生、研究員の積極的な参加によって、当テーマに関して層の厚い研究発展ができていることに満足している。また、共同研究者と哺乳類・鳥類の比較を行うこととなり、哺乳類の独自性を考察することが可能となった。現在進行中の研究を、プロジェクト期間中に論文としての結実させることは今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間の後半戦に入ったため、データ収集に加えて、分析と論文執筆に重点を置き、プロジェクトの取りまとめに向かっていく。文献調査によってデータベース化された社会性哺乳類の生活史パターンから、共通性と個別性に関する特徴抽出を行い、系統種間比較法によって形質進化のパターン把握、進化プロセスの理解、社会的形質との関連を検証する(人件費を用いて雇用する研究員が行う)。鳥類を対象に社会性を研究する同業者と共同で、生活史パラメーターと社会構造に関する分類群間比較を行う。その作業のなかから、哺乳類と鳥類に共通する社会進化の一般原理を探りたい。 実証研究に関しては、ウマ、ハダカデバネズミ、ニホンザル、チンパンジー、アジアゾウなどの種を対象に、社会性に関する実証データを収集し(旅費を用いる)、論文として出版する(英文校閲費を支出する)。また、個体群の特徴が、社会行動と適応戦略に与える影響を検証する。これらの進行中の研究と既存の研究から、生活史を踏まえた哺乳類社会に関する総説を発表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に論文化する予定であった研究に関して、論文の推敲を重ねた結果、平成26年度中に英文校閲に送ることを見送った。これらの論文は、平成27年度の早い段階で英文校閲に送る予定であり、その分、次年度使用額として計上した。
|
次年度使用額の使用計画 |
おもに、現在、推敲中の論文(アジアゾウ、利他行動)の英文校閲費として用いる。
|