研究課題/領域番号 |
25711025
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
沓掛 展之 総合研究大学院大学, その他の研究科, 講師 (20435647)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 哺乳類 / 社会 / 生活史 / 血縁淘汰 / 行動生態学 |
研究実績の概要 |
哺乳類の社会において、個体は異なる社会的段階(順位)、繁殖、生活史(年齢、群れからの移出入)のステージを経る。その一連の過程は社会的変遷(social trajectory)と呼ばれ、個体の異質性(individual heterogeneity)を形成するだけでなく、個体より上位の社会的・生態学的現象に影響する重要な要因である。また、この関係は一方向ではなく、社会構造・生態学的特徴によって、個体の性質が決定されるという複雑なフィードバック構造も持つ。 構成メンバーが比較的安定した群れを形成する種においては、個体の異質性によって、個体間の社会交渉の種類や質が決定される。社会交渉の積み重ねによって社会関係の質が形成され、それらの集積物として社会構造が現れる。これらの社会的変数は個体の適応度に影響を与えるため、個体の社会的戦術は適応進化の対象となる。 このように、行動学的・生態学的・進化学的なタイムスケールを持ち、複雑な階層を持つ社会の適応論的分析は、従来の研究では困難であった。本研究は、個体の社会的変遷の過程を軸に、適応的な行動戦略、群れレベルの変数(群れサイズ、群れ構成、血縁構造)への影響、個体適応度の決定要因、個体群動態を統合的に理解することを目的とする。野外調査、長期人口学的データのパラメーター推定、計算機統計学的分析によって、哺乳類における社会的変遷とその影響に関する新しい概念・知見を提供する。その結果、既存の生活史理論を踏まえた新しい社会行動の理解を目指す。さらに、哺乳類以外の分類群との比較により、各分類群間でみられる共通性と独自性を考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・宮崎県都井岬における半野生馬の個体群における人口データを分析した。このデータは、23年間の調査期間中に生存した500個体以上の繁殖・死亡・繁殖などの全イベントが記録されている稀有なデータである。このデータを元に、まず基礎生態学的なパラメーター推定を行い、レズリー行列の構築による増殖率、安定齢構造などの算出を行った。また、死亡率の性差、老化などの検証も行った。結果を他の半野生馬群と比較し、本個体群における独自性を議論した。その後、個体群動態・生活史パラメーターを決定する生態学的要因や社会的要因(性比・密度)、個体差の決定要因とその帰結を検証した。 ・金華山における野生ニホンザルの行動観察を行い、母子関係とその他の個体との社会交渉における各個体の行動パターンを分析した。また、群れレベルの変数が、個体レベルの行動に与える影響を分析した。 ・哺乳類の生活史戦略における血縁淘汰の重要性を再考し、生活史を取り入れた概念的理論を構築した。その成果を総説論文としてまとめた。現在、原稿に対する査読者のコメントをうけて改稿中である。 ・哺乳類の防衛形質や行動戦術などの形質に関する種間比較を行った。とくに特異な形質にかかる淘汰圧の検出を行った。
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今後の研究の推進方策 |
投稿している論文に関して、査読期間が大幅に延長されたため、また特集号へ投稿する論文の締切設定により、査読が次年度までかかるため、次年度にまで延長して計画を執行することにした。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、投稿中の論文の査読が7ヶ月間もの長期間にわたり、計画していた年度中に掲載まで至ることができなかった。また、成果の一編を特集号に投稿しているが、この締切設定によって、掲載決定が次年度にかかることになった。これらのために、次年度に英文校閲費を計上することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の早い時期に投稿論文の結果がわかると考えられるため、7月末までに英文校閲費として研究費を使用し、本プロジェクトを終了させる。
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