哺乳類の社会において、個体は異なる社会的段階、繁殖、生活史(年齢、出生群からの移出入)のステージを経る。その一連の過程は、社会的変遷(social trajectory)と呼ばれ、個体の異質性(individual heterogeneity)を形成する要因であるのみならず、個体より上位の社会的・生態学的現象に影響する要因である。本研究では、哺乳類の社会性・社会行動を、個体の異質性を考慮して分析し、新たな社会生態学的特徴を検出することを目的とした。複数種を対象にした野外調査、行動観察、生理的測定、系統種間比較を行い、適応論的予測を検証した。 最終年度である今年度は、以下の成果の取りまとめをおもに行った。 (1)宮崎県都井岬に生息する半野生馬(岬馬)において、1987年~2010年の23年間に生存した約500個体の生存・死亡・繁殖を分析した。調査期間中、個体数は73頭から122個体の間で変動した。馬はハーレム型の配偶システムを持つため、雄間競争による雄の高い死亡率が予測される。本個体群では、寿命は雌のほうが有意に長いものの、生存率に性差・年齢差はなかった。約63%の雌は生涯繁殖成功がゼロであったが、最大10頭の生涯繁殖成功を持つ雌もいた。仔の性別に関しては、母親の年齢の二乗項が有意に影響しており、繁殖開始時と終了時により高い確率で雄を産んでいた。これらの長期データから、他の半野生馬個体群、飼育馬との比較を行った。 (2)食肉目を対象に、系統種間比較によって、オスによる子殺しの生起が性的対立の指標である性的二型の度合いによって予測されるかを検証した。その結果、陸棲種においては有意な影響が見られたが、水棲種においては同様の影響が見られなかった。この成果は、性的対立とオスの繁殖戦略が、生息環境によって異なることを示している。
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