研究課題/領域番号 |
25711027
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター) |
研究代表者 |
郷 康広 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター), 新分野創成センター, 特任准教授 (50377123)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ゲノム / トランスクリプトーム / 霊長類 / 脳 / エピゲノム |
研究概要 |
ヒトの大きな特徴である脳、特に前頭前野の肥大化を含めた脳の機能進化をターゲットとし、ヒトと類人猿の複数個体の死後脳12領野における比較トランスクリプトーム解析を行うことにより、ゲノムにコードされた情報の時空間的な制御機構を、機能脳領野間・種間において解明し、その多様化に関与した遺伝子群を同定するとともに、それらの遺伝子群がいかにヒト化に寄与し得たかを解明することを目的とする。 平成25年度はヒトと類人猿の死後脳のサンプルの収集に重点をおいた。すでに収集していた死後脳(ヒト2検体、チンパンジー5個体、ゴリラ1個体、テナガザル1個体)に加えて、ヒト4検体、チンパンジー1個体、オランウータン1個体の死後脳を新たに収集することができた。 しかし、トランスクリプトーム解析には高純度のRNAを必要とし、死因や死後の経過時間などの様々な要因によりRNAの質にばらつきが生じるため、必ずしもすべての個体の死後脳から抽出したRNAが使えるわけではなかった。 厳密なクオリティコントロールを行った後、現在までに、58のトランスクリプトームライブラリーの作製を行った後、イルミナ社のHiSeqによる配列決定を終えたところである。 予備的な解析の結果、大脳新皮質領野においては、同種別領野における発現プロファイルが、別の種の同じ領野におけるそれよりも類似していることが明らかになった。また、ある種のある領野(例えば、ヒトの前頭前野背外側部など)に特異的な発現変化が見られる遺伝子の同定を試みた結果、そのような遺伝子が最も多く同定できた領野は第一次視覚野で、次いで前頭前野背外側部であった。前頭前野背外側部は高次認知機能の中枢であり、ヒトと、チンパンジーを含む類人猿とを構造的に区別する領野として知られているため、現在、それらの遺伝子がどのようなネットワーク関係を保持しているのか、またどのようなモジュール構造があるかを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速シーケンサーによるトランスクリプトーム解析には高純度のRNAを必要とするが、サンプリングした死後脳はそれぞれ死因や死後の経過時間などの様々な要因に左右されるためRNAの質にばらつきが生じる。特に類人猿の場合は、動物園で死亡するケースがほとんどであり、死後から脳を摘出し適切な処置を講じるまでの時間がかかる場合が多い。そのため、当初予定していたより若干のサンプル数の減少はあったものの、個体数としてはおおむね順調にサンプリングはすすんでおり、実験も順調にすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に新たに収集した死後脳(ヒト4検体、チンパンジー1個体、オランウータン1個体)の12領野からRNAを抽出しクオリティチェックを行った後、ライブラリー作製→高速シーケンサーによる配列解析を順次行い、現在までに得られている結果と併せて総合的な検討を加える。 また、ヒト・類人猿脳における複数領野比較エピゲノム解析を行うためのライブラリーの作製の準備も始める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を遂行するためのヒトおよび類人猿の死後脳試料の収集に重点をおいたため、最も費用のかかる高速シーケンサーによる配列解読にかかる経費を繰越しておく必要が生じたため。 平成26年度に新たにサンプリング可能となったヒト4検体、チンパンジー1個体、オランウータン1個体の死後脳の12の複数領野からRNAおよびDNAを調整する。平成27年度は、おもに調整したRNAを用いて高速シーケンサー用のライブラリーを作製し配列解読を行い、網羅的トランスクリプトーム解析を行う。
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